その人には独立間もない10年程前に会った。金のなかった私は(今も金には縁がない😁)少しでも仕事につながればと思い手書きのチラシを配っていた。ある日、その人の奥さんと立ち話をする機会に恵まれた。私の事を氣に入ってくれ見積りを依頼してくれた。但し見積りは御主人に直接、内容説明も兼ねてしてくれとの事になった。指定された日時に御自宅に伺った。その御主人はもしやその筋の人かと思う程の恐面の凄い存在感と威圧感があった。

説明を聞き終わった御主人は一言「この値段でやってくれ」と。原価割れギリギリの数字だった。私はその人の迫力に「判りました」と答える以外の選択肢はなかった。仕事もその後の集金も問題なく済んだ。その後10年程、あの時の迫力に氣をされていたのか無沙汰を続けた。
去年の今頃、その御主人から電話が掛かってきた。「見積りをしに来い」と。久し振りにお会いしたその人は変わらぬ存在感だった。だが「余命宣告を受けた。その日がくる前に氣になる処を綺麗にしていきたい」た私に言った。もちろん、仕事をさせて頂いた。凄く喜んでくれた。「お前、あんな値段では商売にならんかったやろ」と笑わた。喜んでくれた御主人は近くに住む息子さんの処の仕事も依頼してくれた。見積りを持って行った時、「ありがとう、ありがとう」と言われた。その後、息子さんの処の仕事中に御主人の訃報を聞いた。急な容態の悪化だったらしい。後日、お線香をあげさせてもらいに御自宅に伺った。仕事の代金に合わせて昼飯代にしてくれと別に5千円が入った封筒を奥さんから頂いた。御主人が旅立つ前に御自分で用意していたと聞いた。あれから1年がたった
