男「…10時40分…だな」

妹「…あと、少しだね」

男「……。」

妹「でも、あと1時間もにいさんにぎゅってしてもらえるんだったら…やっぱり幸せかも」

男「…妹」

妹「…なに、にいさん」

男「聞きたいことがあるんだけど」

妹「うん…」

男「もし俺が今年のクリスマスで妹を願ったら、お前はまた来てくれるのか?」

妹「…うん、たぶん…もし私を願ってくれたら」

男「…そっか」

妹「にいさんが今年一年いい子だったらだけど」

男「…じゃあ俺はまた今夜妹をお願いすれば、お前は消えないで済むんだな?」

妹「……。」

男「…妹、まだ何か俺に言ってないことがあるよな?」

妹「……。」

男「それを教えてくれないか」

妹「……。」

男「お願いだから」

妹「……。」

妹「…もしこのまま、サンタの魔法が解けて私が消えちゃったら」

男「……。」

妹「私の存在が、みんなの記憶から消えちゃうの」

男「……。」

妹「はじめから私なんていなかったことになって、みんなの記憶も修正される」

妹「だからね、にいさんがもう一度私を願うのは…無理だよ」

男「…そっか」

妹「もしにいさんがまた妹が欲しいって願っても、私のことは忘れてるから…きっとそれは別の妹が来る」

妹「だから…」

男「…おかしな話だな、まったく」

妹「……。」

男「サンタはいい子の願いを叶えるんじゃないのかよ…一年で消えて、その記憶までなくなるなんて誰も幸せにならないじゃないか」

妹「おかしくないよ」

男「え?」

妹「サンタは、一年間いい子だった子に一年分のご褒美をくれるの」

妹「だからサンタは毎年来るんだよ…次の一年をいい子にしてたら、ご褒美はまた一年後に貰えるでしょ?」

男「それでも…記憶が無くなったら意味ないだろ」

妹「…意味はあるよ。覚えてなかったとしても、その一年は確かにあったんだもん」

男「……。」

妹「それに、記憶がなくなるのは仕方がないよ。サンタの魔法なんだから」

妹「魔法が解けたら、みんな元に戻るだけ。そしたら、元々いないはずの私なんか…みんなの中から消えちゃうのは当たり前だから」

男「……。」

妹「ね、そうでしょ?」

男「……。」

男「……。」

妹「……。」

男「…あと、2時間くらいか」

妹「…うん」

男「……。」

妹「……。」

男「…どうすれば良い?」

妹「…ベッド」

男「入るのか?」

妹「うん…たぶん、それが一番落ち着くから」

男「分かった」

妹「にいさんも、入ってね?」

男「おう」

妹「ずっと隣にいてね?」

男「…おう」

妹「……。」

男「……。」

妹「まだ、冷たいね」

男「入ったばかりだからな」

妹「くっついて良い?」

男「良いよ」

妹「…ん」

ピタ

妹「…えへへ」

男「……。」

妹「…ねえ、にいさん」

男「なんだ?」

妹「私のわがまま、今日一日は聞いてくれるんだよね?」

男「…妹のわがままなら、いつだって聞いてやるよ」

妹「にいさんだから?」

男「まあな」

妹「じゃあ、聞いて」

男「なんだ?」

妹「私のこと、ぎゅってして」

男「…こうか?」

妹「ん…それで頭、撫でて」

男「…ほら」

妹「んー」

男「なんだ?」

妹「嬉しいの」

男「そっか」

妹「このまま最後まで、離さないで」

男「……。」

妹「幸せ…にいさん、私、今とっても幸せ」

男「……。」

妹「今なら、このまま消えちゃっても怖くないかな」

男「……。」

妹「…えへへ、嘘。ほんとはちょっと怖い」

妹「でもね、このまま消えても良いかなーって…幸せだから」

男「……。」

妹「……。」

妹「…ね、にいさん、私」

男「分かってるよ」

妹「……。」

男「分かってるから」

妹「……。」

妹「…にいさん…私ね、私」

妹「…消えたくなんか…ないよぉ」

男「……。」

妹「にいさんの妹になれたのに…にいさんに、ぎゅってしてもらってるのに」

妹「今私、幸せなのに…これで消えちゃうなんて嫌だよぉ…」

男「…妹」

妹「もっと一緒にいたい…にいさんと、ずっと…一緒にいたいのに!」

妹「せっかく撫でて貰えたのに…まだまだしてもらいたいことがたくさんあるのに」

妹「なんで…このまま消えないといけないのかなぁ…」

男「……。」

妹「…ひっ…うくっ」

妹「にいさん…にいさぁん」

ギュッ

男「……。」

男「…妹」

妹「…うー…にいさん、にいさん」

男「ほら、よしよし」

妹「…うくっ…うー」

男「……。」

妹「…にいさん…今、何時?」

妹「デート…終わっちゃったね」

男「デートというか、どたばた色んなところ巡っただけだけどな」

妹「その言い方ひどーい!」

男「妹のことが知れて良かったよ」

妹「…うん、私もにいさんに教えられて良かった」

男「…帰るか」

妹「うん」

男「ほら、妹」

妹「……?」

男「家に帰るまでがデートだぞ」

妹「…はいな!」ギュー

男「ただいま」

妹「ただいまー」

母「おかえりなさい、二人とも」

ミャー

妹「お腹空いちゃったぁ」

母「今日はご馳走よー」

妹「ご馳走?やったー」

男「妹、手洗ってからな」

妹「わ、分かってるよ」

母「ほら、ケーキもあるから早く洗ってらっしゃい」

妹「ケーキ!わ、私、すぐ洗ってくる!」

男「…一日中歩いたのに元気だな」

妹「ごちそうさまー」

男「ほんとにご馳走だったな…」

母「あら、ちょっと作りすぎたかしら」

男「いや、妹が頑張って食べたから」

母「ありがとね、妹」

妹「美味しかったからー」

母「ふふ、じゃあちゃんと歯を磨いてから寝なさいよ」

妹「…ねえ、お母さん」

母「ん、なにかしら?」

妹「…ぎゅってして良い?」

母「…おいで」

妹「…ん」

母「…私、ちゃんとあなたの母親になれてるかしら」

妹「うん」

母「そう、なら良かった」

妹「ありがとう、お母さん」

母「バカ、ここでありがとうなんて言われても嬉しくないわよ」

妹「……。」

母「明日の朝、もう一回顔を見せなさい」

妹「……。」

母「大丈夫、お兄ちゃんがあなたを守るから、ね?」

妹「……。」

母「あら…嫌だ、涙脆くなっちゃって」ポロッ

母「ふふ、強い母親ってところを見せたかったんだけど…うまくいかないものね」

男「母さん…」

母「ほら、早く上に行ってお兄ちゃんとお話しでもしてきなさい」

妹「……。」

母「ほら、お兄ちゃんも待ってるから」

妹「…うん」

母「明日の朝は妹の好きな卵焼きを焼いとくからね」

妹「…うん」

母「じゃあ、おやすみ」

妹「……。」

母「返事は?妹」

妹「…おやすみ、お母さん」

母「よろしい」

男「……。」

母「男も、おやすみ」

男「ああ、おやすみ…二階行くぞ、妹」

妹「うん」

トットットッ

母「わたしに出来るのはこれくらいよね?ねえ、あなた…」