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代筆屋のブログ

難しい文章は書けません。とても簡単で分かりやすく相手に訴求する文章の専門家です。あなたの気持ちを聞かしてください。それを代筆して差し上げます。

帰りたくなる場所

 美容院よりも床屋派だが、1000円から7000円までの値段の店を渡り歩いていた。


1000円のカットだけの店もあれば、神宮前の高級美容院で、イケメン兄ちゃんがカットしてくれる店もあった。


無料のヘアカットモデルにも何度か行き、実験台を申し出た。


1000円から1500円程の店を通っていたある日、1500円の店のおばさんに聞いてみた。


「高い店との値段の違いって何?」

「散髪する時間の違いじゃないかしら」


へぇー、そうなんだ?


そのおばさんは1500円の割には、時間をかけてやってくれる。時々僕のホッペを撫でながら。


しかし何処を選ぼうが、少々気に入らないカットであろうが、1週間も経つと髪が伸び好みに大差ない髪型になる。そもそも今まで、これこそベストだと、自分のヘアスタイルを思ったことが無い。(ひょっとしたら僕の頭の格好が悪いだけかも)

プッ!


だからこの価格の差は、なんか勿体ないと考え始めていた。


それで頻繁に、頻度を多く(僕は癖毛なので直ぐに頭がベートーヴェンになる)ローコストの店を選び、カットの回数だけ多くしていた。


たまたま通り掛かった店に入ってみた。

聞いてもいないのに「ハサミよりもバリカンで良いですか?」と聞かれ、良いと言ったら5分後終わった。首に張り付いた毛もバキューム、合わせて7分で仕上がり。


「オッケーで〜す」と無意味に明るい店長の声。


マクドナルドの店長みたいな人が1人でやっていて、アッという間にもう店を出る事になる。髪の毛のカップヌードル化と言うべきか…綺麗になった余韻を味わえない。


僕の頭はこんなに安いのか? 過去の床屋、美容院との関わりが沸々と浮かんできた。ぞんざいに扱われていると笑いながら思った。モグラ叩きの頭じゃない。


他に店は無いだろうかと考えると、遡る事30年前に通った地元の店を思い出した。

あのマスターはどうしているだろう。


懐メロのようにそれだけの考えで訪れて見た。

「いらっしゃいませ」


年取ったマスターが現れ、30年前の僕とは知らず挨拶した。ご多分に漏れず僕も歳を取った。店内は清潔だが客は1人も居ない。直ぐに腰掛け、僕のボサボサの髪を指で僅かに捉え、コツコツ細かく切っていく。


変に喋り掛けて来ないので気が楽だった。僕はリラックスしたかった。話し掛けられない事で落ち着けたが、話さないながらも、彼と僕の真剣勝負は続いていた。


店内のBGMには小川のように、ピアノのソロの調べが流れていた。お互いの腹式呼吸に思えた。店の奥では何事も無いようにと祈る、夫の仕事を見守る妻がいる。


洗髪も丁寧だ。「お痒いところは御座いませんか」


30年前にもマスターはそう言った。

仕上げの鏡を見るとサッパリした自分が映っていた。途中から調べはギターのソロに変わっていた。


4000円だった。


正直これぐらいが程良いと思った。暫く通ってみようか。








 

 

 

 

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