目次をご覧になるとわかるように 1991年はとても牧歌的な時代でしたね。ベルリンの壁が壊れて、壮大な人類史もこれから と思えた時代でした。

 そんな時代に書かれたドナウ河紀行 ーー源流のドイツから始まって 順にオーストリア  チェコスロバキア ハンガリー ユーゴスラビア ブルガリア ルーマニア ソ連(ウクライナ) と言った順です。

 国名が変わったところもありますし、合併した国 分離独立した国と その後の経緯は様々です。

 ドナウ河の特徴は 数あるヨーロッパ大陸の河川のなかでも 唯一東西に流れる大河であると言う点です。アルプスの源から発して 様々の国々を結ぶように流れて行くのですね。それがドナウ共同体とでも言える意識を 過去に生み出しました。必ずしもぴったりと重なるわけではありませんが、パプスブルク王朝史とも重なり合っています。それが単に 中欧と言う地域が地理的な概念ではなかった事が本書を読むことで分かるようになりました。

 少し気になるのは、中欧の古代ローマ以降の歴史を語るに、西欧的価値観を無前提に良きものとして考えているらしき点ですね。海外に出て国際的観点から日本人固有の姑息さ 偏狭さを脱することもあれば、インターナショナルと言う名の固有の価値観を前提として疑うことを知らない楽天性として現象することもあります。そう言う本書のもの足りなさも今日となってみれば 愛おしいほど懐かしく感じられるのです。

 人類史にも、明るく未来が開けた時代があったのですね。