過年 泉鏡花所縁の名月さんの住居跡を訪れたことがありました。そこはJRの逗子駅を降りて踏切を越えると繁華な車道 何とか車の流れを渡って 一歩裏通りに抜けると雰囲気がガラリと変わります。この意外感がーー舞台転換の趣向がまるで鏡花の世界をなぞるかのようなのです。
 お目当ての泉名月住居跡は細やかな それでも最小限の善意が結実したと思えるほどの慎ましさで残されてありました。
 単なる文学碑でも大仰な記念碑でもなく 最小限の小さき空間の想い出とそれを偲ぶための長椅子が据えられていて 幻想の能舞台を観るかのようでした。
 持参したお菓とお茶で暫しの時を過ごさせていただきました。