On Your Mark 113 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

「一番に考えてくれない人は、ってやつも、結構しんどかったと思うよ?」



「え?」



「奈津の言葉。私のこと、一番に考えてくれない人とは、もう会わない、みたいなやつ」



「そんな言い方したっけ?」



友則が私の言い方に似せて真似しているようだったので、ちょっとムッとして眉をひそませた。



言葉も、少し印象が違う気がする。



「もちろん家族のことを一番に考えてると思う。でも、奈津のことも同じくらい大事なんじゃない?」



「…分かってるよ」



今日私が言った言葉のせいで、恭ちゃんが傷ついたのなら、それはそれで仕方がないと思う。



私は恭ちゃんに恋愛感情は持てない。



大事にしてくれるし、大切だけれども、そうじゃない。



根本的なものが、違うのだ。



「ま、恭ちゃんはこれからも、奈津に会いたいと思うけどね。男と女になってしまえば、いずれ終わりが来るけど、そうじゃなかったら、ずっと友達でいられる。ただこれからも一緒にいたいだけだと思うよ?」



「私、残酷なことしてるのかな?」



言うと、友則は持っていたタバコを口から外して、こちらを見た。



ギュッと携帯していた灰皿に、それを押し付ける。



「奈津は恭ちゃんのこと、男として好きっていうわけじゃないんでしょ?」



「…うん。でも、これからもこうして会いたいと思う」



「いいんじゃない?別に。恭ちゃんだってその先を望んでるわけじゃないんだから。俺らに会うのと、大差ないじゃん」



「うん」



「またこうして飲もうよ、みんなで」



「うん。そうだね」



きっと今の私には、恭ちゃんがいないと耐え切れないくらい、彼に頼りきっている。



それが恋愛感情じゃなくても、自分を理解して話を聞いてくれる人の存在は、大きいものなのだ。



「ねぇ、タバコ一本貰っていい?」



言うと、友則が驚いたような顔をしてこちらを見た。



「え、奈津って、タバコ吸ったっけ?」



「ううん、吸わない。でも、時々こうして一息したくなるの」



「一息、って。喫煙者の言い方じゃん」



「違うよ、肺に吸い込むやり方も分かんないし、ただのポーズ。だけど時々、こうしてふーって落ち着きたい時、欲しくなるの」



「はい、どうぞ」



友則が愛煙しているタバコの箱を差し出してきた。



とんとん、と振って、一本引き出るようにしてくれる。



簡単に出てきたところを見ると、もう残り少ないようだ。



タバコが切れると人のものばかり奪おうとしていた彼が、こんな風に文句も言わず差し出してくれたことに申し訳なさと、少しの苦笑が漏れたが、私は遠慮なくそれを頂いた。



彼にはこれまでたくさんの奉仕をしてきている。



こんなもの、一割の引き換えにも満たない。



「ありがと」



私は一本抜き取ると、ライターを借りて、それに火をつけた。



ふーっと深くため息をつくように、息を吐く。



カチ、と二本目のタバコに友則が火をつけた。



「まったく、こんな小娘のどこがいいんだかね?」



冗談みたいにちら、と私を見下ろして言うので、私も上目遣いで睨みつけてやった。



「悪かったですね、小娘で」



「はは、まぁそこが奈津のいいとこだけどねー?」



「友則だって、美優ちゃん逃したら、きっともう次はないよ?」



「おっ、言うねー、そんなことないし、美優は俺から離れられないけどねー?」



ははっと苦笑まじりに笑う。



友則とは、このほどよい距離感が、ちょうどいい。



和弘みたいに近づきすぎて妙な関係になったわけでもなくて、恭ちゃんみたいに、恋心があるわけでもない。



正真正銘の、男友達だ。



「あ、恭ちゃんだ」



その時、横で座り込んでいた美優ちゃんが、腰を上げて、叫んだ。



視線の先を伺うと、本当にコンビニのビニール袋を下げた恭ちゃんがこちらに向かって歩いてきているのが見えた。



別にやましくはないけれど、心配されるのが目に見えているので、私はタバコの火を消した。



「恭ちゃーん!」



と大きく手を振る。



すると向こうも小さく振り返してくる。



微妙な表情で、苦笑いしているのが分かる。



「ほら、買ってきたで?美優ちゃんはアイス、奈津は、おにぎりやろ?友は、タバコと、」



ひとつひとつ、手渡してくれる。



「わーい、ありがと」



ふと、彼のものがないことに気が付いた。



「あれ?恭ちゃんのは?」



「俺?俺は、別に欲しいもんなかったから、何も買ってないよ?」



「それなのにわざわざ行ってくれたの?」



「ん?うん、まぁそうやけど、別に気にせんでいいよ?」



「ごめんね、ありがと」



「奈津が行って危ない思いするくらいなら、全然俺が行った方がいいやろ?心配やし」



にこっと笑う恭ちゃん。



優しすぎて、戸惑うくらいだ。



こんな私にそんな優しさを使うこと、ないのに。