Escape 38 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

夏喜が言ってくれた言葉は、すごく、嬉しかった。



ここにいていい、って言われたことも、大丈夫だ、って言ってくれたことも。



夏喜の大きな優しさに、包まれてるみたいな気持ちになった。




ヒロトからの連絡は、そうしつこくはなかった。



夏喜と三人で会った日の翌日、一度電話は鳴ったけど、戻れない、と突き放した。



それからしばらくは音信不通だった。



これでヒロトが引き下がるとは思えなかったけど、連絡がないことで、しばらくはいつもの毎日を過ごしていた。



そんな中、私は近くのファミレスで、バイトを始めた。



土日を含めての週に三日ほどだから、時間はそれほど縛られない。



家のことも、無理ない程度にした。



私がいない日は、小夜子さんが家事を担ってくれた。



これで生活費を入れられる。



私はこの家のただのお荷物じゃなくなる。



バイトは初めて尽くしで疲れるし、覚えなきゃいけないこともたくさんで大変だったけど、私は充実感を感じていた。




そんな日が続いた頃、学校帰りに、電話が鳴った。



ドキ、っとして、ブレザーのポケットに入れていたそれを取り出す。



予想通り、ヒロトだった。



電話に出ないことも考えたが、そうすると写真をばらまく、と脅されそうだ。



だから私は、スマホをタップし、耳に当てた。



『お前、今どこ?』



それしかレパートリーがないのか、と思うほど、いつも通りの言葉だ。



ため息が出そうになる。



一度でも、こんな男のことを好きかもと思っていた自分が、情けなくなる。



「学校」



『ふぅん、今から来いよ』



「行かない」



『はぁ?お前そんなん通じると思ってんの?』



「…今から、バイトだから」



『お前バイトなんかしてんの?』



「そうだよ、自分の生活費くらい、自分で稼ぎたいから」



『へぇ、そんなにあの男に惚れてんの?』



夏喜のことだと思った。



「違うって。そういうんじゃない。彼は、そういう人じゃない」



『なぁ、とりあえず来いよ、俺、今夜は暇してんだわ』



ぞく、とした。



ヒロトが何を考えているのか、一瞬で分かる。



今夜行けば、確実に抱かれるに決まっている。



「無理。バイトだって言ってんじゃん」



『そのバイトほっぽって出て来いって言ってんだよ!』



ヒロトの声が大きくなる。



明らかにイラついているのが分かる。



『お前、あの写真あの男に見せられてもいいのかよ?』



やっぱり、と思った。



ヒロトは最初からSNSに拡散しようなんて思ってない。



夏喜に見せるって、私を脅すつもりなんだ。



多分、私の弱みが、夏喜だって悟って。



「ねぇ、そんな写真、いつ撮ったの?そんなこと、したことなかったよね?」



してる最中に動画なんて、私は全然記憶にない。



『はぁ?お前、見たいわけ?自分が、イキそうんなって叫んでるとこ』



「……」



スマホを持つ手に汗がにじんでくる。



そんなの、夏喜になんて見られたくない。



絶対に。



『すぐ来いよ。待ってるから』



ヒロトの声が、頭の中で何度もこだまするみたいに響いた。