Escape 24 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

今日は、土曜日。



学校はない。



夏喜は、朝方バイトから帰ってきて、まだ寝ている。



金曜日の夜は、普段以上に店は賑わって、帰りはいつも遅い。



小夜子さんも、昨夜は夜勤だったらしく、まだ起きてこない。



私は一人、暇だった。



きっと昼頃には起きてくるだろう彼らに、昼食でも作っておこう、そう思い、キッチンに立ち、冷凍しておいたご飯で、チャーハンを作った。



それが出来上がって、十二時を過ぎた頃、ようやく夏喜が起きてきた。



「夏喜、おはよう」



「あぁー、おはよう」



あくびをしながら、頭をポリポリ掻いている。



どうやらこの仕草は、彼の癖らしい。



真っ先に冷蔵庫に行って、麦茶を取り出す。



それも、私が作ったものだ。



この家の中は、自然と私が手にかけたもので染まりかけている。



「なんかいい匂いする」



夏喜がフライパンを覗き込んで、くんくん、と鼻を嗅ぐような仕草をする。



「チャーハン作ったんだけど、食べる?」



「うん、食べる」



「じゃあ準備するね?私も一緒に食べちゃおう」



ここに住み始めて、まだ二度目の週末で、夏喜とこうして一緒に食卓に着くのは、数回目だ。



「母ちゃんは?」



彼らも、ほとんど顔を合わせることはない。



だけどこうしてお互いを気にかけながら暮らしている。



思いやりが見えて羨ましい。



「まだ寝てるみたい。昨日夜勤だったみたいだから」



「あぁ」



お互いのスケジュールさえも把握していない。



そんな二人の架け橋に、最近は私がなれているような気がする。



その時、小夜子さんが起きてきた。



「いい匂ーい、チャーハン?私も食べていい?」



「もちろんです。準備しますね」



「あ、いい、いい。自分でやる」



腰を浮かせかけたところで、小夜子さんが制した。



私は再びダイニングに座って、スプーンを手にする。



でも何か先に食べてることが申し訳なくて、彼女の着席を待つ。



「藍ちゃんがこうしてご飯作ってくれて、ほんと助かってるわよねぇ?」



小夜子さんが言う。



「ほんとですか?」



嘘だとしても、その言葉は嬉しい。



「ね?」



小夜子さんが夏喜に同意を求める。



「あぁ、まぁ」



「うち、ほんと生活スタイルバラバラだから、こうして一緒にご飯食べることも、ほとんどなかったし。藍ちゃんが来てくれてすごく華やかになったわぁ」



「ほんとですか?」



「洗濯や掃除もしてくれるし、私は楽させてもらっちゃって、助かってるのよ?これならもう少しシフト増やせるかも」



嬉しい。



人の役に立てていることが。



でも、ほんとにこれでいいんだろうか。



「そうだ、これから、お買い物も藍ちゃんに任せちゃダメかしら?」



「え?」



「藍ちゃんが作りたいもの、選んで好きに買ってきてもらっていいのよ?」



「おい」



夏喜が一言入れる。



「ダメかな?お金は、食費として決まった額毎週渡していくから、そこでやりくりして買ってきてもらえない?ほら、買い手と作り手が違うと、何買ってきたらいいか、分からないし」



「私は、いいですけど…」



「ほんと?じゃあお願いしちゃおうかなぁ?」



「でも…」



「ん?」



「ほんとに、いいんですか?」



私はいったい、いつまでここにいられるのだろう。



もうそろそろ十日だ。



他人の家に無償で連泊するには、そろそろ気が引ける。



「別に、うちはいつまででもいてもらって構わないのよ?」



「でも…」



「お家のことが、気になる?」



「それは、ないですけど」



家のことは気にしていない。



ヒロトからの連絡はしつこいけど、もうあそこには戻りたくない。



むしろ、私が気にしているのはこの家のことだ。



赤の他人を、そんな風に無条件で迎え入れてくれる、この人たちの優しさだ。



「お家の人たちには、なんて言ってるの?」



「家のことは、いいんです。もともと、帰ってなかったから」



「そう」



小夜子さんだって、うすうすは気が付いているんだろう。



私が、家出少女だってことを。



「この家に、ご迷惑かけるようなことは、したくないので…」



「大丈夫よ、迷惑なんて思ってないから」



「でも…」



せめて、何かしたい。



「何にも返せてないのが、申し訳なくて」



「返してもらってるじゃない。こうしてご飯作ってくれて。家の中のこともしてくれて。夏喜も、何だか明るくなったし」



「おい」



ふふ、と小夜子さんが笑う。



「ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて、嬉しいです。でも、せめて、何か…。ただで住まわせてもらってるのが、申し訳なくて。食費とか、入れれたらいいんですけど、」



でも、私には、生活能力がない。



親からお小遣いを貰ってここに支払っても、喜ばれない気がする。



「だったらバイトすれば?」



「え?」



言ったのは、夏喜だ。



「うちは一万でも二万でも入れてくれたら助かるんだし、ただ飯食うのが悪いって思ってんだったら、バイトすりゃいいじゃん。コンビニとか、ファミレスくらいなら、お前だって出来んじゃねぇの?」



「バイト…」



でも、それって。



「バイトかぁ?藍ちゃんどう思う?」



「やって、みたい」



私でも、出来ることがあるだろうか。



そして、ここにお金を入れることが出来るんだったら、なおさらやってみたい。



「藍ちゃんがやりたいんだったら、私は賛成。それで藍ちゃんの罪悪感も消えるんならね。住所や連絡先は、ここを書くといいわよ」



「いいんですか?」



多分、未成年だったら、保護者確認欄とかあるんじゃないだろうか。



「構わないわよ。バイトだもん。何かあったときの緊急連絡先が必要なだけだろうから、私が書いてあげる」



「ありがとうございます!」



「じゃ、決まりな。お前が好きなこと見つけて、それやればいいじゃん」



ごちそうさまと言って夏喜が立ち上がる。



好きなこと、か。



「あんま詰め込みすぎねぇで、無理ない範囲でいいよ。家のことも、無理しなくていいから」



「それは、私も賛成」