Escape 19 | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

疲れているはずなのに、なぜか上手く寝付けなかった。



私がいないことに気が付いて、ヒロトから連絡が来るだろうと思うと、緊張した。



通知もすべて切って、アラームだけがかかる状態にして、眠りについた。



初日からドキドキするけれど、夏喜に言われたから、そっと冷蔵庫を開けてみる。



朝の六時半。



まだ誰も起きていない。



冷蔵庫の中は、充実している、というほどではなかったけれど、普通の一般家庭にあるような調味料と食材が、入っていた。



卵に豆腐、お肉に加工食品、野菜室は結構種類がたくさんだ。



おそるおそる取り出して、お味噌汁を作ってみる。



フライパンや鍋は、キッチン下の引き出しにきちんと整理されて直されていた。



七時を過ぎて、ちょうど朝食を作り終えた頃、小夜子さんが起きてきた。



「あらぁ、藍ちゃん、起きてたの?」



「あ、ごめんなさい、私、勝手に」



小夜子さんの顔は、昨晩よりも、もうひと段階若い。



寝起きだからだろうか。



髪の毛も、緩くうねっていて、パーマなのか天然なのか、ふわふわ寝癖が付いている。



「えー、藍ちゃん、料理出来るのぉ?」



「はい。少しなら」



「少しじゃないでしょう。十七歳でこんなの作れるなんて、すごいわよぉ。うちの夏喜、何にもしないからねぇ?少しは教えとくんだったわ」



「あ、はは」



「あ、しまった、洗濯物!」



「小夜子さん、お仕事ですか?」



「うん、今日は日勤だから、八時過ぎには出るかな?」



「あ、じゃあ良かったら、食べてください」



「いいの?あ、藍ちゃん、洗濯物は?」



それは、どうしようかと考えていたところだった。



さすがにこの家の洗濯機で一緒に洗うわけにはいかないから、溜めてコインランドリーにでもいこうかと思っていた。



「良かったら、出しちゃって。一緒に回しちゃうから」



「え…でも、」



「いいから、早く!早く回さないと、仕事遅れちゃう!」



「あ、はい」



促されるまま、私は昨夜出た洗濯物を、和室から持ってきた。



「藍ちゃん、洗濯機回せる?」



「多分、」



昨夜シャワーを借りた時に見た、脱衣所にあったそれは、一般的な縦型の洗濯機だった。



ヒロトの家にあったものとさほど変わらないので、使い方は分かるだろう。



「だったら、それ一緒に入れて、回してきてくれる?」



「はい、分かりました」



小夜子さんはおいしいおいしいと言って、私が作った朝ご飯を食べてくれた。



別に、普通のお味噌汁と、卵焼きと、ウインナーを焼いただけなのに。



来たばかりの他人の家の、キッチンを勝手に借りて。



だけどそんなことには何も文句は言わず、彼女は嬉しそうに食器を片付けて、仕事に出掛けて行った。



せめてもと言って、私が洗濯物を干している時、ようやく夏喜が起きてきた。



もう、八時を過ぎている。



ベランダから戻って、夏喜に挨拶をする。



「おはよう」



「あぁ、お前、いたの?」



私がここに来たことを忘れているかのような、そんなのはどちらでもいいような、空気のような存在で私を見る。



あくびをしながら頭を掻いている姿は、これまで見てきた彼の姿とは、打って変わって別人だ。



「朝ご飯、あるけど?食べる?」



ちら、と食卓に目をやる。



「いや、もう出ねぇとやばい。遅刻する」



毎日深夜まで働いているのだ。



これが夏喜の日常なのかもしれない。



「お前は?学校、間に合うの?」



私はもうすでに制服に着替えている。



昨夜、ヒロトの家から一緒に持ってきたものだ。



「私も、もうすぐ出る」



「ふぅん。あ、俺、今日もバイトだから、夜いねぇけど、母ちゃんは?」



「仕事って言って、さっき出て行った」



「あっそ」



またしても頭を掻きながら部屋を出て行く。



次には制服を着て現れたかと思うと、彼はそのまま家を出て行ってしまった。