片隅 颯太① | ♡妄想小説♡

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主に妄想記事をあげています。作品ごとにテーマ分けしていますので、サクサク読みたい方は、テーマ別にどうぞ。 ※物語はすべてフィクションです。  
たまに、推しへのくだらん愛も叫んでます

"花火しようぜ"



そう言い出したのは、やっぱりいつもの通り、黎弥だった。



黎弥は、いつだってそうだ。



先のことは考えず、目先のことばかり。



周りが見えず、今楽しければそれでいい。



まぁ、そんなところが、黎弥のいいところであり、みんなのムードメーカーになってくれる、筆頭役でもあるのだけれど。



そんな黎弥のことを、羨ましくも思うし、好きなのだけど、



…でも、好きな人に告白、っていうのは、ちょっと、悪乗りしすぎじゃないか?



そんなの、誰にも言えるわけがない。



本人にも、周りにも。



と、いっても、線香花火では負ける気がしなかったので、誰の気持ちを聞けるのか、なんて、少し楽しみにしていたのだけど、肝心なところで邪魔が入ってしまった。



仕方がない。



みんなの気持ちは、だいたい分かっている。



希子は、分かりやすいくらいに北人が好きって顔に出てるし、多分周りみんな気付いている。



気付いていないのは、本人くらいだろう。



そんな北人も、希子のことが好きだって態度でバレバレだし。



両想いの癖にお互い気付いていないところが、間抜けで二人らしい。



だからと言って、お膳立てしてやるほど、人は良くないのだけど。



それに、夏喜が希子のこと好きだってことも、知っている。



三年になったばかりの頃に、一目惚れしたんだと、本人から聞いている。



そんな最高に面白い相関図を、外側から眺めていることこそが、俺にとっての楽しみなのだ。







「ねぇ、颯ちゃーん、」



北人と教室に入ると、窓際の席から一番に黎弥がやって来た。



今日は早い。



黎弥にしては、一本早い電車に乗れたのだろう。



三軒隣に住んでいるという希子にでも叩き起こされただろうか。



同じ電車で来るときは、二人はいつも一緒だ。



幼馴染みというやつで、腐れ縁扱いして言い合っているが、結局は、仲がいい。



少しだけ、羨ましい。



そんな存在がいない俺にとっては。



「なん?」



返事をすると、俺の机の前に座り込み、上目遣いで覗き込んで、両手を合わせた。



「お願い!」



あぁ、またか、と思う。



「古典の宿題、見して?」



そうだろうと思った。



最初に、"颯ちゃん" と愛称で呼ばれた時から、気が付いていた。



あんな風に甘えた声をだして呼び掛けた時点で、何かお願い事がある証拠だ。



「やって来とらんと?」



「だって全っ然分からんっちゃもん。今日、俺当たる日なんよー。お願い、見して?」



黎弥は甘え上手だ。



たれ目のつぶらな瞳で、上目遣いで見上げられると、何でも許してしまいそうな気持ちになってしまう。



「…俺も、自信ないっちゃけど?」



「そんなことないやろ?颯ちゃん頭いいやん?古典の平っち、まーじで怖いからさ、頼むよー」



「別に、俺のでいいなら、いいけど」



カバンからノートを取り出すと、奪うようにして黎弥はそれを取り上げた。



持参していた自分のノートを開いて、開いていた隣の席に座り込み、写している。



「あっ、颯ちゃーん、わたしもー」



同じように甘えた声を出して、今度は希子がやって来た。



まったく、こいつらは、どいつもこいつも。



必死になって二人で頭を付き合わせて俺のノートを覗き込んでいる。



「颯太ってさ、頭いいのに、何でこの高校受けたん?」



顔は上げずに、黎弥が聞いた。



ドキ、とする。



「颯太やったらさ、もっと頭いいとこ、行けたやろ?何でここなん?もったいね」



希子と黎弥が、くっつきそうな勢いでノートを写している姿から、視線を変えた。



すると、席に着いたままこちらを見つめている、北人と目が合った。