「どうしたんですか」
酒井が恐る恐る尋ねた。
「ごめんなさい。あまりにおかしいことを言うから」
「亭主関白じゃないんだ」
と、大口。
「そう。完全に妻が尻に敷いてるの。親と別居したいと言い出したのは、妻の願いで、県議はだったら、家を建てるに当たっては、一部自分の好きに建てたいと言って、それだけは認めたの。でも、県議がいつもいるのは、家の奥で、来客の時だけ表に行くの。で、奥さんつまり、私の友人は、本人には、あんたは嘘つきだと言っているし、親しい友人にも、あのどうしょうもない男と言ってるわ。それで、この話が広まれば、県議は落選すると思って、妻のいいなりよ」
「恐ろしいですね」
「それでね、最近では、発言内容から男らしいと勘違いする女が多少いて、『女房が恐いでしょうなんて言っている腑抜けが多くて日本が守れるか』と言ってる話が奥さんに伝わったの」
美代子がみんなを見渡し、私のところで視線を止めた。心底、恐いと思った。