「純日本式家屋ですか」
大口が言う。
「あんた、何を聞いてたの」
美代子があきれて聞き返した。
「表の部分は、屋根瓦に土塀で日本風にして、その下の応接室は畳敷き、掘り炬燵、書院造りにしたのよ」
「僕の言うとおりじゃないですか」
「話は最後まで聞きなさい。その書院造りの応接室から廊下があり、引き戸を開けてまた廊下があり、そこから生活スペースになるんだけど、そこはセントラルヒーティングで、破風があって、出窓があって、全室洋間になっているし、エアコンがついているから、夏は涼しいの」
「な、なんのために」
「決まってるでしょ。来客に、マスコミの記者も含めて、日本の伝統文化をだいじにしているというイメージを作るためよ。ちなみにトイレも、表だけ和式よ。水洗だけどね」
「辛いものがありますなあ」
太った大口が、足がしびれたように、足をさすった。
「その家は亭主関白なんですね」
酒井が尋ねた。
「なんで」
「だってそういう家を勝手につくったんでしょう?」
「ハハハハハ」
美代子がけたたましく笑いだした。