「池畑さんは、恐れ多いと何度も断りましたが、原作者の岩谷時子さんが、この役ができる人がいないのはあなたしかいないと説得して、出ることになりました」
という。しかも、長く公演が続いているらしいが
「越路さんがなくなったのが56歳。池畑さんが57歳となり、越路さんがなくなった年齢以上の歳で公演を続けることはできないとの池畑さんの思いから、これが最後の公演です」
という。ほう、なかなか見上げたプロ根性だと、ついつい見始めた。
のっけから、芝居に引きずり込まれた。凄かった。
池畑慎之介の演技がまずいい。自然の感じで見事に演じていた。岩谷役の高畑淳子や、かつての恋人・真木小太郎役の草刈正雄らのわき役陣も、素晴らしかった。
カラオケで歌うのは、シャンソン系が多い自分は、結構越路吹雪の歌を歌っているものだと改めて気づいたが、この芝居を見て、さまざまな事を知った。
まず、愛の賛歌の有名な日本語の歌詞、多くは訳詞となっているが、あれは本当の訳詞ではないということだ。実際は岩谷時子の作詞であることを知った。
あなたの燃える手で あたしを抱きしめて
ただ2人だけで生きていたいの
で始まる素晴らしい創作。フランス語をそのまま訳したのでは、こういう感覚にはならない。まさに、日本人の心情に訴える名作の詩である。
次に宝塚歌劇団が、多くの名優・名歌手を輩出していたということだ。もちろん越路吹雪もそうで、八千草薫なども歌劇団出身ということは知ってはいた。しかし、乙羽信子、淡島千景、新珠三千代らまでもそうだとは知らなかった。ちなみにサイトので調べてみると、朝丘雪路、浜木綿子らもそうである。
三番目は意外に知っているようで知らなかった越路吹雪像だ。東京出身とは知らなかった。男っぽそうなところから、一途な恋を貫いたと思っていたが、真木は前妻を亡くして、子ども(この子どもがマイク真木だ)のことから、越路は結婚をあきらめ、年下のピアニストと結婚した。この結婚は、20年後の越路がなくなるまで続く。
あの大歌手にも、我々がまったく知らない隠れた悲恋物語があったが、その後は、立派に妻の座を守り通したのだと思った。
「越路吹雪物語」、深夜の時間帯で、見終わって感激してしばらくボーッとしていると午前4時だった。それからすぐ寝たが、まだ眠い。でも、見て良かったという満足感が残っている。