決して裕福ではなかったが、家族と過ごす何気ない日常が私にとって「幸せ」だった。
父の豪快な笑い声、母の上品な笑顔、兄弟姉妹たちのはしゃぐ姿。
目を閉じ、やがて訪れる「夢の時間」には必ず家族たちの姿があった。
あたたかく、フワフワとした心地の良い空間。
それが、私の「幸せな夢」だった。
・・・あの人に出会い、しばらく共に過ごすまでは。
あの人が、何者なのか、何が目的なのか、そして何をしているのか・・・全て知っていた。
でも、あの人は決して私たちに危害は加えなかった。
もちろん、それが優しさではなく駒として動いてもらわねばならないからだという事も知っていた。
私たちは与えられた仕事をきっちりこなす。
その報酬として、あの人から「幸せな夢」を頂くのだ。
何を「幸せ」とするかは各々違うものの、一瞬でも現実から逃避できる「夢の時期」がありがたかった。
それくらいに、あの人によって集められた私たちは過酷な環境で今を生きているのだ。
当然、目を覚ませば待っているのは逃げられない厳しい現実。
でも、また「幸せな夢」という糧があるから何とか乗り越えられるのだ。
あの人が、ねっとりとした声で子守唄をうたう。
瞼が重くなり、やがて皆すうすうと寝息を立て始める。
フワフワとした心地の良い空間、それは今までと変わらない。
違うのは、夢に現れるのが家族ではなく・・・あの人だということ。
何をするわけでもない、ただただ同じ空間に私とあの人がいる、それだけの「夢」。
今の私にとって、これがいちばんの「幸せ」なのだ。
幸せな夢、それは・・・あなたの夢を見ること。
そう、私は恋をした。
人間ではない、あの人に。