心理士になりたい大学生は有名私立大学経済学部出身。


誰もが知ってる一万円札の先生がつくった大学だ。


「なんで心理士なんだろう?」


気になって聞いてみた。


「国家公務員一種が本命で、第二志望をどこにするか探していたんです。

そのとき説明会で家庭裁判所調査官っていう仕事を知ったんです。
すごくこころ惹かれるものがあったんです。
その方が日系ブラジル人を例にして話をしてくれたんです。

実家の近くに日系ブラジル人のコミュニティーがあって、夜遅くまで子どもたちが騒いでいたりトラブルが絶えないんです。

警察沙汰になることもあって、すっかり地域住民と溝ができてしまっているんです。

そういう問題をなんとかできないかって思ったんです。」



おぉぉ~
久しぶりに聞くいい志望動機だ。

よくあるパターンは

「身近な人が病気で」とか、

「○○を読んで興味をもった」
とか、

「○○先生の話を聞いて感動した。」

とかいう
とってつけたような話ばかり。


正直で身近な疑問から、テーマをたてている。

将来の目標もある。

意欲もあって、英語も統計も得意だ。



私はあることを彼に提案する。
たった一年で大学に戻った私。



そのころ病院内で科を越えた連携を深める取り組みが始まっていたところだった。



「他科依頼」



今では当たり前のことだが、そのころは珍しかった。



私はそこで医師や看護師と方法を考えることになる。



今となっては私の原点となる仕事。



求められる場所で自信を回復することができた。




あれからたくさん時間が過ぎて、今なら笑って話せる。



きっと歳をとったんだね。
年末 教授に呼び出された。



この時期、来年度の配置をどうするか決めるのだ。



大学病院は強制人事といって、教授が人事の采配を握る。




私は
「今の仕事楽しいです。来年度もお願いします。」
とウソをついた。




教授は

「そう。」

と一言いい、私の顔をじっとみつめる。


「随分痩せたね。」

と教授。


「ダイエットです。」
笑顔で言う私。



教授はゆっくりと本題に入る。


「来年度、あなたには大学に戻ってもらいます。あの病院を希望している人がいるんです。」





私はたまらず話し出す。

「まだ出来ます。やりたいんです。」

感情が込み上げてくるのがわかった。




「チームをやるにはまだ早いと思うよ。それぞれの職種が力を持たないと成り立たない。今のあなたを受け入れられるチームはあそこじゃない。大学でスタッフを育てなさい。」



後から知ったのだが、教授は同じ医局のメンバーから病院の様子を聞いていたらしい。



教授の温かい言葉に涙が溢れた。



私は大学病院に戻ることを決心する。

たった一年間で単科精神科病院を去ることになる。



このときの経験は私を強くしたと思う。