煌めく水面。揺れる波。頬をかすめる潮風を感じ、今日も我らの船は航海を続けていく
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満月になると、この船ではいつも宴が開かれる。
それはシリウス海賊船 船長リュウガの決めた掟だった。
海賊はただでさえ酒が好きな輩が多い。だからと言って、毎日宴を開いたのでは、船の上では生きてはいけない。陸から離れた海の上では食料も水も酒も貴重だからだ。
だから、約30日の日を待ちわびて開く宴はとても盛り上がる。
そんな掟を定めたリュウガだったが、満月でなくとも、特別に宴が開くことがあった。
それは、この船の乗組員の生まれを祝う日だ。
海賊になるものは何かしら人に言えない過去がある。
そんな自分の生まれた日など興味も何もない輩が多かった。
中には、生まれてきてよかったのかと疑念を持つ者もいるかもしれない。
それでも、船長が宴を開くには訳がある。
いつ命を落とすことがあっても不思議ではないない海賊稼業。
共に戦い抜いた戦友が今日まで生きてこれた祝いと、これからも海の神に愛されるよう祈りを込めて宴を開くのだ。
そんな生誕を祝う宴にもう一つ開く意味が加わったのは、この船に奇妙にも乗り込んだ一人の女性のおかげだろう。
張り切って祝いの準備をする様を見ていると、不思議と胸の奥をくすぐられるような、懐かしい気持ちになる。
皆、口にしなくとも、その存在を愛しいと思っていた。
もし、そんな感情を態度に出してしまおうなら、彼女の後ろに立つ船医が、柔和な笑みで牽制するのだからたまったものではない。
ある意味、この船で最強なのでは?という説もある。
そんな皆の心を虜にする〇〇は、今日は大事な船医の生誕祭という事もあり朝から料理や飾り付けなどで駆けずり回っていた。
その努力と、皆の協力により、甲板に集まった皆から笑みがこぼれる盛大な宴となった。
(よかった…。みんな楽しそうに飲んでる)
安堵したのもつかの間、疲れもあったせいか、宴の中盤になるころには瞼がとろんと下がってきていることに、目ざといソウシは気づいた。
注いでもらった酒を一口飲み干し、コトンと器を甲板に落とす。
「皆、今日は私のために宴を開いてくれてくれてありがとう」
感謝の言葉を述べると、周りが小樽のジョッキを掲げそれぞれに祝いの言葉を連ね始めた。
「今年も無事宴を開けたな。ソウシ」
「ええ。おかげさまで。船長のおかげですよ」
「ソウシさん!おめでとーっす!!」
「ありがとう、ハヤテ」
「ドクター、これからもよろしく頼みます。」
「もちろんだよ、シン」
「ドクター、料理は口にあったか?」
「いつもながらどれも美味しいよ、ナギ」
「ソウシさん~今度手合わせお願いします~!」
「ふふっ。わかったよ。トワ」
皆に囲まれ、それぞれに祝いの言葉を掛けられるソウシを見て、〇〇は嬉しくなり、自然と口角があがる。
きっと、今までもこうしてこの仲間たちは互いの無事を祝いながら、これまでの苦難を乗り越えてきたのだろう。
自分がいなかった時も、きっとこの人は一人ではなかった。
そう思うと、どこか安堵した想いと嬉しさで胸に何とも言えない感情が広がる。
酒のせいでほわほわした感覚も相まって、〇〇はふにゃりと頬を緩ませた。
その瞬間、くるりと振り向いたソウシと〇〇の視線がバチリと合った。ソウシはそのまま〇〇の手を取りゆっくりと立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ私たちはおいとまするよ。」
「ほえ?」
酔っていたとはいえ、奇妙な声をだしてしまった〇〇はあわてて口元を抑えた。
「そうだな!ちゃーんとプレゼント貰えよ!ソウシ!」
ハッハッハッと高笑いしたリュウガにソウシはくすりと笑い牽制した。
「リュウガ、明日、よーく効く二日酔いの薬出しとくね」
「お~怖っ!さぁ、主賓がいなくなっても、俺らはまだまだ飲むぞ!野郎ども付き合えよ!」
甲板で騒げば闇夜に溶ける声も聞こえない。
それが彼らなりの気の回し方など知らない〇〇はこのまま宴を後にしていいのか困惑した様子を見せた。
「いいんですか?ソウシさん」
「〇〇ちゃんは、残りたい?」
くすりと笑ったソウシの笑みはどこか妖艶で悪戯めいたものだった。大好きな人が手をひいてくれているのだ。答えなど聞かなくてもわかるはずなのに。
「…その聞き方はずるいですよ…ソウシさん」
次第に耳まで赤くなる〇〇をみていると、普段むき出しにならない男の性が高まるのはどうしてだろう。
可愛くて大事にしたいのに、この人がどこにも行かないようにしたくなる。自分しか知らない顔を、今すぐみたくてしょうがなくなってしまうのだから。
きっと、この人の為なら自分はなんだってしてしまうだろう。
「…〇〇ちゃんには、本当にかなわないよ」
ぽつりと言ったソウシの言葉に〇〇は首を傾げた。
敵わないのは自分の方なのに。どうしてそんな事をいったのだろう。ソウシさんは。
いつも目が行ってしまう。傍にいたくなる。
一言ひとことに一喜一憂してしまう。
ソウシに比べたら幼い自分が歯がゆくて、背中を追いかけるのに一杯な自分なのに…。
そんな感情を胸に抱きながら、2人はソウシの部屋へと足を進めた。
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薄暗い部屋にランプを灯し、オレンジ色の光が優しく二人を包む。二人きりになった途端、先に唇を寄せたのはソウシだった。
重なる唇から湿り気を帯びた音と、胸いっぱいに広がる愛情から吐息が漏れた。
「今日は疲れただろう?大丈夫?」
「はい。ソウシさんの大切な日だもの。嬉しくなってしたい事をしただけですから。平気です」
〇〇の顔を覗き込むと、柔らかい笑みを浮かばせていた。
視界に広がる愛しい人の微笑みをソウシはこのままずっと見ていたいと思った。
ぎゅっと〇〇を抱きしめて、ゆっくりとベットに腰掛ける。
「おいで」
自分の手をひくソウシに〇〇の胸が高鳴った。
普段優しい言葉遣いのソウシが時折見せる雄々しい部分に鼓動が早くなる。
こんなに優しい人に、熱い眼差しで強く抱きしめらたら好意を寄せない人なんていないだろう。そうでなくてもあの船長に、「人たらし」という名称を付けられているのだ。
トクトクと早なる鼓動が聞こえはしないかと少しだけ気恥しくなる。ソウシとお付き合いをして何年も経つが、いまだに胸が締め付けられてしまうのだ。
狭い船内におけるベットは一つ。そこで二人寝ようとすると、ソウシがすっぽりを〇〇を包み込むような姿勢になる。
〇〇の柔らかい髪がソウシの鼻先をくすぐる。
この子はどうしてこんなにいい匂いがするのだろう?
陽だまりの香りがする。
優しく頭をなでながら、自分より細い〇〇の体をやさしく抱きしめた。
「ソウシさん、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、〇〇ちゃん」
見つめ合い再び口づけを交わすと二人はふふっと笑いあった。
「ソウシさん、今年のプレゼントなんですけど、その…」
口ごもる〇〇の頭をなでるソウシは皆聞かなくてもわかっていた。
前に補給で陸に上がったのは1週間前だった。その時、〇〇は今日の為に贈り物を準備しようと思っていたのかもしれない。
けれど、生憎その数日前に嵐に見舞われ船の補修で手いっぱいだったのはこの船に乗るものなら誰でも知っている。
それでも今日こんなに素敵な宴を開けたのは皆のおかげと、そのために全力で準備に励んでいた〇〇のおかげだろう。
その上プレゼントだなんて。
「いらないよ」
「…え…?」
「俺は何もいらない。もう充分すぎるくらいだよ」
いつもそう思っている。
君がいるだけでどんなに毎日楽しいのだろう。
どんなに毎日が愛しいのだろう。
朝起きると、やわらかな陽を浴び、さわやかな潮風を感じる。
気の置けない仲間と美味しい食事をとり、たわいもない会話をしているだけでも、自分のこれまでの人生を思うともったいないほどだった。
そこに突然現れた一人の女性。〇〇。
ヤマトに寄港した際に積んだ樽に入っていた彼女と共に過ごしていくうちに、抗っても抗え切れない感情に魅入られてしまった。
もう愛する資格も、愛される資格もないと思っていたの自分を叱責してくれた女性は後にも先にも彼女だけだろう。
そんな彼女が奇跡的にも自分を好きだと言ってくれた。
側にいたいと願ってくれた。
涙が出るほど嬉しかった。その日から世界はより美しく温かいものだと感じたのだ。
これ以上の贈り物があるのだろうか。
「ありがとう。〇〇」
これ以上出せないくらい優しい声色で。
何度も〇〇頭を撫で、ぎゅっと身を寄せていると、かすかな呼吸音が耳をかすめた。
おや?と〇〇を見てみると、〇〇の瞼が閉じている。
(…今日は疲れていたからな)
寝顔の〇〇はいつもより少し幼く見えるが、そんな所も可愛いと思ってしまう。
静かに額にキスを落とし、少しだけ体温があがった〇〇をすっぽりと抱きしめながらソウシはその寝顔を堪能した。
不運で家族をなくし、故郷を失った自分だが、数奇なめぐりあわせでリュウガと出会い海賊船に乗った。
万病に行く「大地の手」を手に入れたら、そこで自分の旅は終わるだろうと思っていたが、こうして今もこの船に乗り続けている。
――不思議だな。
あんな悲しい出来事がなかったら、この人と出会えていなかったかもしれない。
ずっと故郷でその生が尽きるまで暮らしていただろう。
ヤマトに住んでいた〇〇とはもちろん会う事も出来なかったはずだ。
――人生、何が起きるかわからないな。
悲しいことも、嬉しいことも折り合わせて紡がれていく。
ふと、懐かしい家族の顔が浮かんだ。皆、笑顔でソウシに手を振っている。
「…俺は、幸せにいきてるよ」
言葉にならない感情が胸に広がり頬に〇〇の顔を引き寄せた。
この人と、そしてもう一つの家族のような仲間と、共に生きていくからね。
「…ん、…そう、し、さ…」
〇〇の口から自分の名を呼ばれ、ソウシは笑みを零した。
「夢の中まで、俺に会ってるの?」
生まれて初めて抱く、愛しくて仕方ないという感情を持て余しソウシは彼女を起こさないよう優しく何度も〇〇にキスをする。
静かな海の上で、聞こえてくるのは、〇〇の寝息と、遠くからこの船の仲間たちの陽気な笑い声
「最高じゃないか」
ふふっと笑ったソウシは、静かに揺れる船内に身を任せ、今年一番の幸福感を感じながら、〇〇に額を寄せ今日一日を締めくくる。
明日も、きっと良い日になるだろう。
そんな事を願いながら――…。
end
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【後書き】
ソウシさん、ハピバ~~!!!
いや、本当に嬉しい!!こうしてまたソウシさんの誕生日がお祝い出来て
先ほど、このブログをいつから書いているんだろうとみたら、
2010年でしたよ
ソウシさんたちと出会ってもう14年?!
そりゃ当時2歳だった息子も高校生になりますよ!
そんな話はさておき、今回お話を書いていて、自分の引き出しが本当になくなったなと実感しました(;'∀')
多分、似たようなお話を過去にも書いていると思います。
初めは一度書き直そうかなとも思いましたが、
書きたいテーマがソウシさんの幸せそうな時というのと、シリウスメンバーとの掛け合いなので、このまま書き進めちゃいました。
月課金から下船してから、100恋で細く長くいますが、
この季節はやっぱりヲタ活ゼロでもソウシさんの元に返ってきますね(*´ω`*)
ソウシさん、これからもヒロインちゃんと、シリウスメンバーと、今回登場できなかったリカーの皆たちとわいわい賑やかに平和に過ごしていってくださいね!(海賊なので時には荒々しさも)
お誕生日おめでとうございます
2024.6.24
モカ☆