以前話題になっていたのに観ることができなかった舞台。新年早々大阪で上演されるというので、早速チケットを手に入れて出かけてきました。
原作はあの天才劇作家井上ひさし、初演は1974年に当時の西武劇場で行われたそうです。以来何度も再演され、過去の舞台では、上川隆也、沢口靖子、古田新太、阿部サダヲ、唐沢寿明、藤原竜也、篠原涼子、夏木マリ、吉田剛太郎、白石加代子、高橋一生、辻萬長、梅沢昌代、古馬勝己など、錚々たる人気俳優が出演しています。
2020年に大阪公演が予定されていましたが、直前に起きたコロナ禍のために上演が中止され、今回5年の時を経て、やっと開催されました。
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あらすじをHPからお借りしました。
江戸の末期、天保年間。下総国清滝村の旅籠を取り仕切る鰤の十兵衛は、老境に入った自分の跡継ぎを決めるにあたり、三人の娘に対して父への孝養を一人ずつ問う。腹黒い長女・お文と次女・お里は美辞麗句を並べ立てて父親に取り入ろうとするが、父を真心から愛する三女・お光だけは、おべっかの言葉が出てこない。十兵衛の怒りにふれたお光は家を追い出されてしまう。
月日は流れ、天保十二年。跡を継いだお文とお里が欲のままに骨肉の争いを繰り広げている中、醜い顔と身体、歪んだ心を持つ佐渡の三世次が現れる。謎の老婆のお告げに焚き付けられた三世次は、言葉巧みに人を操り、清滝村を手に入れる野望を抱くようになる。そこにお文の息子 ・きじるしの王次が父の死を知り、無念を晴らすために村に帰ってくる―。
と、ここに書かれているのはさわりだけで、実際は人物が複雑に絡み合っています。もっと簡単にいうと、江戸時代の宿場にある二軒の旅籠を継いだそれぞれの任侠一家が、骨肉の争いを繰り広げるというもの。欲望のままに身内を裏切り、挙げ句の果てには殺し合うことが繰り返されます。
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そこは井上ひさし、単なる時代劇に終わらせていません。ちょっと変わった題名は、江戸時代に実際にあった任侠一家の抗争を元に宝井琴凌が作った講談に、シェイクスピアの数多の戯曲を組み合わせてパロディにしたことに依ります。
どこにシェイクスピアを取り入れたのか?私が気が付いただけでも書き出してみます。
父親が3人の娘に孝行を問う場面は、まさに「リア王」の世界
二つの名家?が対立するのは「ロミオとジュリエット」の設定
その他にも「ヘンリー6世」の世界観や
「マクベス」の魔女の予言の引用
「ハムレット」の有名なセリフ
”To be,or not to be,that is the question."
の日本語訳を、現代から明治時代の翻訳まで遡って、語り手にしゃべらせたり
「真夏の夜の夢」の妖精たちの仕草を模した、などなど。
役名にもシェイクスピアの登場人物のもじりが。
鰤の十兵衛→ブリテン王リア
よだれ牛の紋太→モンタギュー
お里→リーガン
お光→コーデリア
お冬→オフィーリア
佐渡の三世次→リチャード3世
尾瀬の幕兵衛→マクベス
蝮の九郎治→クローディアス
ぼろ安→ボローニアス
利根の河岸安→キャシアス
など、ちょっとダジャレっぽいのもありますね(笑)。
専門家によると、27作品が取り入れられているそうですが、マニアックすぎて分かりませんでした。
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井上ひさしお得意の言葉遊びのセリフが散りばめられ、加えて音楽劇とあるように、宮川彬良が戯曲につけた楽曲が、ミュージカルのように歌と踊りで繰り広げられます。
キャストもベテランから若手まで芸達者が揃っていて、安心して観ていられました。特に印象に残ったのは
語り部として隊長役の木場勝己。初演からの配役なので、長台詞も澱みなくテンポもあり、聞いていて気持ちよかったです。
鰤の十兵衛、他4役を演じた中村梅雀。TVドラマのユーモラスな役柄がチラつきましたが、こちらも軽妙で良かった。
ひとつの配役を演じた人もいれば、ひとりで8役を演じ分けた人もいて、大変だったと思います。
原作は、今ではコンプライアンスに引っかかるセリフや場面もあり、上演にはハードルが高くなってしまいました。暴力やセックスシーンなどがモロに演じられて、大丈夫?と思う場面も。
そんなことを差し置いても、普遍的なテーマである人間の業や欲望を描いたこの作品には、魅力が溢れています。時代劇とミュージカルの両方を楽しめるという側面もありますね。
近い将来再演されるかもしれませんが、上演前にあらすじと登場人物の複雑な相関関係を予習しておくと、より一層楽しめます。欲を言えば、シェイクスピアの主だった戯曲を読んでおくと、面白さが倍増するはずです。
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追記
大阪公演は1月7日に観に行きました。会場は梅田芸術劇場メインホール。千穐楽というのに、客席は空席が目立ったのが残念でした。真面目な時代劇と思われたかもしれませんね。こういうウィットに富んだ作品は、関西では人気がないんでしょうか?
