モノクロの地味な映画なのに、結構評判がいいので、どれどれと思って観てきました。
あらすじ(映画.comより)
大学教授の職をリタイアし、妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋にひとり暮らす、渡辺儀助77歳。
毎朝決まった時間に起床し、料理は自分でつくり、衣類や使う文房具一つに至るまでを丹念に扱う。時には気の置けないわずかな友人と酒を酌み交わし、教え子を招いてディナーも振る舞う。この生活スタイルで預貯金があと何年持つかを計算しながら、日常は平和に過ぎていった。
そんな穏やかな時間を過ごす儀助だったが、ある日、書斎のパソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。
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主人公の儀助役を演じるのは長塚京三。この10年くらいは演出などの裏方に回ることが多くて、映画やTVの表舞台から遠ざかっていました。久しぶりの主演ということでしたが、元大学教授というプライドをもつ知的な面と、教え子の女性に欲望を抱き、若い女の子に恥じらいながらも近づこうとするスケベ心のある表情が、なんともユーモラスで好感の持てる演技でした。
筒井康隆の原作を若い頃に読み込んで、いつか映像化したいと思いながらやっと映画化した、新進気鋭の吉田大八監督は、敢えてモノクロで撮ることで原作の世界観をシンプルに表現できていると思います。
映像化不可能と言っていた筒井康隆にも、この映画は絶賛されていましたね。私は原作は読んでいませんが、細かいところまでしっかり映像表現されていたそうです。
物語はまず、東京の山の手の古民家に住む主人公のルーティンな日常生活が紹介されます。朝起きて歯を磨き、自分だけの食事を作り、豆を挽いてコーヒーを味わいながら新聞を読み、掃除や洗濯もひと通りこなします。一人で住むには広すぎる家の間取りや、庭の造り、書斎の内装など、ちょっと羨ましく思えるほど洒落た生活が繰り返されます。
(モノクロながら、おいしそうな料理やコーヒーの香りが伝わってくる映像美が素晴らしい!)
昼間は雑誌の連載記事をパソコン(Macのデスクトップ!)で書きながら、電話や宅配便の応対など、平穏な生活が繰り返されます。この辺りの淡々とした描写は、あの”Perfect Days" を思わせますね。
時折訪ねてくる教え子たちとのやりとりが、平穏な生活にちょっとしたアクセントをつける流れになっています。時折ユーモラスな場面もあり、監督の遊び心も入れられています。
後半になると、そんな状況が一変。パソコンのメールに「敵がやって来る」というメッセージが何度も着信するようになり、次第に生活が乱れてきます。
主人公の生活も、現実と妄想(幻覚)、虚(夢の中)と実の境が曖昧になり、それは次第に我々観る側にも伝染して不思議な感覚に襲われます。この辺りは、筒井ワールドの真骨頂というべき世界観がモノクロでうまく表現されていますね。
また所々にフランス文学のエスプリなども差し込まれていて、知っている人にはわかるセリフや表現があるのも洒落ていますね。(犬の名前がバルザックとか 笑)
「敵」とは何か?平穏な生活を乱すのは虚実の区別がつかなくなった認知なのか、はたまた老いても残る欲望なのか?その正体は最後まで明かされず、観る側それぞれが想像するに任せた、不思議な映画でした。
