晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜 -134ページ目

晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
そんな暮らしがいい!

2021年に「アガサ・クリスティー賞」を審査員全員満票という快挙で受賞し、翌年2022年には「本屋大賞」を受賞して話題になった小説を、今年文庫本になったのを本屋で見かけて、ふと思い出して初めて読んでみました。

 

タイトルがちょっと陳腐だったのと、単行本の表紙のイラストが趣味に合わなかったので、話題になった時はそれほど興味を引かなかった小説です。主人公は第二次世界大戦当時のソビエト(現ロシア)赤軍の女性スナイパーというので、翻訳小説かなと思ったら、日本人作家のデビュー作と知ってビックリしました。

 

あらすじ(早川書房のHPより)

 

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。

「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために……。

同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?

 

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私は知らなかったのですが、第二次世界大戦のソ連軍には実際に女性兵士が従軍していたそうです。それも招集されたのではなく志願兵が多かったとか。当時そのような国は他になく、その数なんと100万人近かったそうです。その中にはこの小説の主人公のように、狙撃兵として前線に赴任した女性も実際にいたようです。

 

この小説はその戦争で実在した女性の狙撃兵をモデルにして、膨大な歴史資料を読み込んで書き上げられた、極上のサスペンス小説になっています。プロットの素晴らしさや伏線回収の巧みさ、そう来たか!というのが何ヶ所もありました。

 

戦争小説なので、当然戦闘場面が多くありますが、その臨場感たるや、読みながら自分がまさにその現場にいるような錯覚を覚えました。

 

目標に標準を合わせる時の緊張感。狙撃して命中した後の空疎な感情。逆に狙撃される対象になった時の冷や汗が出るような感覚。すぐ横にいた同僚が狙撃され、体の一部が衝撃で吹き飛ばされた瞬間の描写。間近に砲撃を受けて肉片になった兵士を見る時の感覚。

 

この小説のすごいところは、そんな戦闘場面だけでなく、主人公の感情描写が巧みに表現されているところです。ある時は怒りを覚え、ある時は躊躇し、ある時は悲しみに包まれ、ある時は慟哭し、ある時は人を愛する。戦争に従軍した兵士の複雑な感情を見事に描き分けています。

 

主人公は身内を殺された復讐心から狙撃兵になるのですが、実際の戦場で遭遇する様々な理不尽さは、読む我々にも戦争とは何か?ということを考えさせられます。

 

主人公の描き方も素晴らしいですが、彼女の上司や同僚のキャラクターも物語に厚みを増す設定になっています。反発して喧嘩をしたり、抱き合って泣き叫んだり、お互いの感情がジェットコースターのように揺れ動きます。女性隊員どうしの友情を、湿っぽくならない感じで男性の作家が書いているのも素晴らしい。

 

独ソ戦が第二次世界大戦の中でも激戦だったという話は聞いたことがありましたが、この中で描かれている戦況は(たとえフィクションとはいえ)思っていた以上の悲惨さです。

 

よく引き合いの出される「戦争は女の顔をしていない」という作品がありますが、これは従軍した女性の証言集なので、現場は想像するしかありません。この小説と併せて読んで初めて、女性兵士の境遇や感情が少しは理解できるような気がします。

 

読み始めた時はカタカナの人名に馴染みがなくてとっつきにくかったのですが、読み進むにつれて気にならなくなり、物語の展開に夢中になってどんどん読む速度が早くなっていきました。男女問わず面白く読める小説だと思います。