映画”ベルファスト” | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
そんな暮らしがいい!

昨年度のアカデミー賞脚本賞を受賞した作品です。

 

 

あらすじ(公式HPより)

ベルファストで生まれ育ったバディは家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごす9歳の少年。たくさんの笑顔と愛に包まれる日常は彼にとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動により悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの暴徒が、街のカトリック住民への攻撃を始めたのだ。住民すべてが顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断されていく。暴力と隣り合わせの日々のなか、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断に迫られる――。

 

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仏教も神道もキリスト教も、なんでも許容してごった煮のようになっている現代の日本からは想像もつかないですが、海外(特に中近東からヨーロッパ)の紛争の一番の原因は宗教です。キリスト教とイスラム教という風に分かれていればわかりやすいけれど、ややこしいのは同じキリスト教の中でも「カトリック」と「プロテスタント」が反目(対立)しているというのは、宗教改革から始まる歴史的な背景を知っていないと全く理解できないですね。

(日本でも仏教界内部での対立などがありますが、ここでは省きます)

 

この映画は、英国の一部である北アイルランドで、1960年代末から30年余りに渡って続いた「北アイルランド紛争」の初期を、ひとりの少年とその家族の生活をベースに描いた作品です。

 

モノクロ画面に映し出されるのは、近所どうしが顔馴染みで、貧しくてもお互いに助け合い、愛し合い、笑顔とユーモアが溢れる生活していたごく普通の人たちが、信じる宗教の違いだけで、ある日突然暴動に巻き込まれ、反目し合い、別れなければならない状況に翻弄される姿です。

 

脚本は監督でもあるアイルランド出身のケネス・ブラナーの手に依るものですが、彼の幼少時代の記憶がかなり反映されている自伝的な作品です。

 

パディ少年はじめ、両親はもとより一緒に暮らす祖父母の表情やセリフがとても心に残ります。モノクロ映像だからこそ表すことのできる喜怒哀楽、風景はもちろんですが俳優のアップやアングルを変えたカメラワークの素晴らしさ。俳優陣のさりげない演技が光ります。

 

特に、重要な場面で話されるお爺さんやお婆さんのセリフが含蓄に溢れています。

「お前の言っていることが理解できないと言うなら、それは彼らがお前の言うことを聴いていないだけだ」

「答えがひとつなら紛争など起きんよ」

「人は変化を嫌う。だが時代は変わった」

「みんな、お前の味方だ。お前がどこに行って何になろうと、一生変わらん。それがわかっていれば不幸にならない」

「行きなさい、振り返るんじゃないよ」

その他にもいろいろありますが、人生経験の豊かさからくるさりげない言葉には説得力がありますね。

 

祖母役の女優がどこかで観たことがあると思って調べてみたら、007シリーズでボンドの上司 "M" 役を務めたジュディ・デンチでした。どおりで貫禄と凄みが感じられるお婆ちゃんだなと改めて納得。

 

モノクロ映画ですが、家族で観に行った映画館で上映される映画はカラーだったのは、監督の年少時代の思い入れが反映している気がします。上映されているのは「恐竜100万年」「チキチキバンバン」「真昼の決闘」など。何気にTV映画の「サンダーバード」や「スタートレック」が登場するのもその時代ならではで、とても懐かしくなりました。

(誰かのレビューで「『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせる」とありましたが、まさにそんな感じです。)

 

もっと紛争の悲惨な場面が映し出されると思っていたのですが、この映画のテーマは紛争そのものではなくて、そんな悲惨な状況でも生き抜く人間愛だから、あくまでバックグラウンドとして必要最小限の演出に止めていました。

 

1960生まれのケネス・ブラナー監督と同世代もしくはそれ以上のひとには、子供時代の懐かしさと併せて楽しめる映画です。