もう二ヶ月も前ですが、イラストレーターの和田誠さんが亡くなりました。
彼のイラストは単純な一本線で描く似顔絵が多いのですが、影をつけるでもなく、鮮やかな色もつけずに、二次元のシンプルな絵にも拘らず、その人物の特徴をよく捉えていて、立体的な三次元の世界に見えるという不思議な世界が広がります。何気ないことですが、すごいテクニックだと思います。
著作権などの関係でここで紹介することはできませんが、検索すればいっぱい出てきますね。
彼は映画にも造詣が深くて、いろんなエッセイを書いていますが、彼を偲んで、その中でも一番よく知られた「お楽しみはこれからだ」を読み返してみることにしました。
といっても、1975年に出版された本なので本屋で手に入れることは出来ないため、図書館で借りてきました。
Part 1から Part 6まで続いた人気シリーズで、副題が「映画の名セリフ」とあるように、和田さんのお気に入りの映画の名セリフと共に、その映画(すべて外国映画)に出演していた俳優のイラストが添えられるという構成になっています。
題名からしてシャレています。「お楽しみはこれからだ」は1946年に作られた映画「ジョルスン物語」に出てくるセリフで、オリジナルは "You ain't heard nothin' yet"。なかなかの名訳じゃありませんか。
日本語スーパーは(今でもそうですが)限られた行数の中で、わかりやすく原語を伝えなくてはならないので、訳者の腕でかなり印象が違ってきます。戸田奈津子さんなどが有名ですね。
この第1集に納められているのは、1930年代から1970年代に公開された映画が対象なので、当然私が見たこともない映画が大半ですが、それでも読んでいて楽しくなります。
この本にも紹介されいますが、映画のセリフで一番有名なのは、「カサブランカ」(1943年)の中で、ハンフリー・ボガートが女につれなくしているセリフ。
「ゆうべどこにいたの?」
「そんなに昔のことは覚えていないね」
「今夜会ってくれる」
「そんなに先のことはわからない」
キザと言ってしまえばそれまでですが、昔の映画はこんな粋なセリフがいっぱいです。
有名な映画でピックアップしてみると
「一人を殺せば犯罪者だが百万人を殺せば英雄だ」
これは「チャップリンの殺人狂時代」(1947) の中のセリフですが、一時期は反戦スローガンに使われてましたね。
キザッぽいセリフをもうひとつ。
「あなたは愛してるって言ってくれたことがないのね」
「そんなこと知ってると思ってた」
「女はそれを聞きたいものなのよ」
「グレン・ミラー物語」(1954) の中のセリフ。アメリカ人はこんなことをサラッと口にしますが、日本人は照れ臭くてダメですね。
今ではラグビーの合言葉のように言われているこの言葉も、元は映画から。
「一人は全員のために。全員は一人のために」
原語は All for one and one for all.
「三銃士」(1974) の銃士のモットーとして出てきますが、元は「戦艦ポチョムキン」というロシア映画に出てくる革命スローガンらしいです。
意味もないのに記憶に残るものもあります。
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」
「メリー・ポピンズ」(1964) の魔法の言葉。何回もリメークされていますが、最初の主演女優はあの「サウンド・オブ・ミュージック」のジュリー・アンドリュースです。(個人的に私の好きだった女優さんのひとりです。)
といったように、(これは極々一部ですが)和田さんの独断と偏見で選ばれた100作以上の映画のさわりが、素敵なイラストと共に紹介されています。
彼の記憶力もすごいですが、やっぱりイラストで書かれた往年の俳優たちの絵がすばらしい。顔は知らなくても、なんとなく雰囲気がわかってしまうのです。
父は劇団員、奥さんは平野レミ、息子は和田唱、その嫁さんは上野樹里という芸術家一家ですが、それぞれの道で売れっ子というのも血筋でしょうか。
確か彼の書いた本が何冊か家に眠っているはずなので、探して読み直してみたいと思っています。