生オケで観る「ウェストサイド物語」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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古今東西の映画の中で、私が一番好きな映画

「ウェストサイド物語」  WEST SIDE STORY

 

もう50年以上前に作られた映画ですが、今だにこれを超える映画はありません。(と確信しています。)

 

「何がそんなにいいの?」と聞かれても、「全部!!」としか答えられません。

 

よく知られているように、「ロミオとジュリエット」を基にしたストーリーといい、斬新なカメラアングルといい、L. バーンスタインの作曲した先進的な音楽といい、これほど全てのバランスが取れた映画はほかにないでしょう。特にジェローム・ロビンズが振り付けたダンスの素晴らしさは、今見てもキレッキレのパーフォーマンスです。

 

劇中の歌もどれも名曲揃いですが、後半に演奏される”トゥナイト”の五重奏などは、リズムやメロディの違う演奏者たちが複雑に絡み合い、でも全く違和感のないハーモニーが生まれる、オペラ顔負けの壮大な楽曲ですね。

 

厳密に言えば舞台ミュージカルの映画化なので、純粋なオリジナル映画ではないのですが、もう何十回と観ていても飽きない、見どころ聞かせどころ満載の傑作です。

 

そんな「ウェストサイド物語」の音楽を、映像に合わせてオーケストラが生で演奏する、というイベントを発見。しかも指揮は「一万人の第九」でもお世話になっている、あの佐渡裕さん。これは是非行かないと、ということで観に(聴きに?)行ってきました。

 

写真は当日のパンフレットの表紙

”シネマティック・フルオーケストラ・コンサート”と副題にあるように、映画鑑賞+コンサートということのようです。

 

会場は大阪中之島にあるフェスティバルホール。なんでも今年は作曲者のバーンスタイン生誕100周年ということで、こんなイベントが企画されたようです。そしてバースタイン最後の愛弟子という佐渡さんが、今回指揮をすることになったという経緯があったようです。

 

会場のロビーにはそんな師弟関係を示す写真や

 

バーンスタインの若い頃のイケメン写真などが展示されていました。

 

ホールに入ると、正面にスクリーンがあり、ステージの上にオーケストラの椅子が並んでいます。てっきりオペラやミュージカルの時のようにオーケストラピットで演奏すると思っていた私は、ちょっとビックリ。

 

プログラムによると、総勢80人を超えるフルオーケストラにハープやドラム、エレキギターのプロを交えた大編成のようで、さすがにこれだけの人数はオーケストラピットには収まりませんね。

 

8月9日木曜日、平日の夕方にも関わらず、2,700人のキャパのあるホールはほぼ満席。年配の女性が圧倒的に多いのは、映画のファンなのか、佐渡裕さんのファン(サドラーといいます)なのか?

 

18:30に開演しました。

 

最初に佐渡さん一人がステージに現れ、バーンスタインとの思い出などを語るトークタイムがありました。

 

お兄さんがカラヤンのファンだったので、佐渡さんは対抗してバーンスタインのレコードを聴きまくったという話や、バーンスタインの指揮を初めて生で見たのが、このフェスティバルホールだったとか、いろんなエピソード満載でした。

 

そして、映画の上映が始まりました。

 

オーケストラのメンバーは当然画面を見られないので、佐渡さんの指揮が頼りです。その佐渡さんも画面ばかりでなく、楽譜も見ないといけないので、どうやって映像とタイミングを合わせるのだろう?と思っていたら.....。

 

よく観ると佐渡さんの指揮台の前にモニターがあり、そこにメトロノームのような罫線が走っています。曲の出だしのキューや、テンポに合わせてその罫線が動くようです。

 

これもプログラムに書いてあったのですが、そのテンポどおりに指揮をすればいいというわけではなく、オケの音は指揮から遅れて出るので、早めに指示をだす必要があるとか。確かにテンポが少しでもずれたら、映像は止まってくれないので、合わせるにはかなりの技術が必要のようです。

 

映画のサウンドトラックから抜かれているのはオーケストラの音だけで、この映画の特徴のひとつでもある、フィンガースナップや口笛はオリジナルのままです。これに合わせるのはとても大変なのは想像がつきますね。

 

映画のオリジナル演奏の記憶が邪魔をして、最初は生オケの音やテンポが少し気になりましたが、しばらくすると違和感なく耳に入ってきて、映画に集中できるようになったのです。

 

心配していた映像とのズレもほとんどなく、ダンスシーンの音楽もぴったりシンクロして素晴らしかったです。

 

パンフレット↑には映画の解説や佐渡さんのインタビューなどが書かれていましたが、3ページにも渡って楽曲解説が書かれていたのは、やはりコンサートということなんでしょう。

 

その解説のなかで、何十回と聞いていたのに初めての発見がありました。あまり詳しくは書けませんが、バーンスタインの作曲したこの劇中曲の基本のモチーフが「三全音」(=増4度)という、普通なら使わない不協和音程でできていることです。

 

平均律で言えば、あと半音上げれば完全五度というきれいな協和音程になるのに、なぜバーンスタインはあえてこの耳障りな音程を持って来たのか?そこには映画の主人公たち(マイノリティの若者たち)の不安や苛立ちを表すためという彼の意図があったようです。

 

そして完全五度で解決する音を加えることで、希望や愛を示すモチーフにするという、目から(耳から)ウロコの解説を読んで納得。

 

体育館でのダンスシーンのブルース、マンボ、チャチャ

シャーク団が踊る”アメリカ”のテンポの良さ

有名な”トゥナイト”の甘いメロディ

ジェット団が踊る”クール”の文字どおりクールなリズム

などなど、思い出すだけで気持ちが高まります。

 

この日の演奏を聴いて、映画を見直して、益々大好きな映画になりました。