舞台「ムサシ」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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若手の男優の中でも、人気実力を兼ね備えた藤原竜也と小栗旬が共演した舞台「ムサシ」。二人のあまりに人気に2009年に初演された時は、あっと今にチケットが完売して手に入れることができませんでした。

 

いつか観てみたいと思っていたのですが、今年再演されるという情報をキャッチしてなんとかチケットを入手して、今日やっと観に行くことができました。

 

「ムサシ」とはもちろん宮本武蔵のこと。初演以来ずっと藤原竜也が演じています。ライバルの佐々木小次郎役は、初演の小栗旬とは違って今回は2013年からの海外公演で小次郎を演じた溝端淳平。その他の出演者もほぼこの時のキャストが揃いました。

 

 

脚本は井上ひさし、演出は2年前に亡くなった蜷川幸雄、音楽は宮川彬良という当代一流のスタッフが勢揃い。今回の公演は蜷川幸雄の三回忌追善公演と銘打って上演されました。

 

会場は大阪梅田にあるシアター・ドラマシティ。おそらくは藤原や溝端目当てでしょう、観客の9割以上は女性という感じで男性は数えるほど、それも若い人はいなくて私のような中年以上が多かったですね。

 

 

舞台は巌流島の決闘シーンから始まります。結果は史実通りに武蔵が勝ち、小次郎は瀕死の重傷を負ってしまいます。ここからプレイバックするのかと思いきや、そこは井上ひさしの脚本、物語はそれから6年後、奇跡的に一命をとりとめた小次郎が鎌倉の禅寺にいた武蔵を見つけて再び果し合いを申し込むという意外な展開に。

 

出演者は他に、柳生宗矩(吉田剛太郎)、沢庵禅師(六平直政)、檀家の木屋(白石加代子)、檀家の筆屋(鈴木杏)と芸達者が揃っていて、主役の二人と共に禅寺を舞台に繰り広げられる三日間のやりとりが何とも奇想天外。

 

そもそも武蔵と小次郎、沢庵和尚と柳生宗矩が一つ屋根の下に集まるという設定自体がありえない発想で、このあたりはさすが井上ひさしといったところ。

 

柳生役の吉田剛太郎が能が大好きな剣士として道化役を務め、そのセリフや所作が会場の笑いを誘います。

 

白石加代子の存在感は抜群ですね。舞台で鍛えた台詞回しと膨大なセリフを滑舌がよく通る声で演じる様はさすがの貫禄でした。

 

小次郎役の溝端淳平もよく頑張っていましたが、やはりここは小栗旬の舞台が観たかったというのが正直なところ。

 

主役の藤原竜也は、さすが演り慣れた役どころだけあって安心して観て居られました。腰の座った所作と堂々としたセリフはまさにハマリ役。井上ひさしが彼を武蔵にアテて書いたというのも頷けます。

 

伝統芸能の能の舞を取り入れたかと思えば、なぜか出演者が剣術の稽古から一転して、タンゴのリズムに合わせて集団でダンスを踊るという一幕もあり、エンタメ要素も満載。

 

舞台は終幕になってどんでん返しがあり、主役の二人以外は実は.....という意外な展開に。人間の尊厳と生き様を、時に仏教思想を絡めながらユーモアに包んで訴えかけるという趣旨はよくできていると思います。

 

蜷川幸雄の演出した舞台というと、もっと激しい台詞回しを予想していたのですが、割と淡々と進行して行ったのはちょっと意外でした。彼の意思を継いだ俳優陣やスタッフの心意気が感じられたいい舞台でした。