映画の冒頭、いきなり "We Shall Overcome" の歌が聞こえてきました。
この歌が歌われた時代を肌で知っている人の胸には、これだけであの頃のことを思い出して切なくなります。
学生運動が盛んだった1970年前後の空気がこの映画の中には溢れていて、懐かしいと思う人、二度と振り返りたくないと思う人、観る人によって様々な感情が溢れてきます。
仙台にある女子高校に通う野間響子(成海璃子)は、世間の雰囲気に感化され、学校内で制服廃止闘争委員会を作ってビラまきやシュプレヒコールなどを繰り返す日々を過ごしています。しかし徐々に学生運動の真似事に嫌気がさしていたところに、友人に誘われて「無伴奏」という名の音楽喫茶に入ります。
バロック音楽がかかり、2人掛けのベンチシートが中心の室内はタバコの煙でもうもうとしていて、そこで響子は大学生の渉(斎藤工)や彼の親友の祐乃介(池松壮亮)や渉の恋人エマ(遠藤新菜)と出会います。物語はこの4人を中心に進行しますが、必然的に響子は祐乃介と付き合うようになり、肉体関係も結ぶ仲になります。
4人で昔風のグループ交際をしていくうちに、ある日衝撃的な事件が起こります。それまで淡々と穏やかなセリフが交わされて、今の若者から見たらダサいと思われるような雰囲気が一変してすさまじい結末に向かっていきます。この映画がなぜR15+指定なのかわからなかったのですが、「あぁ、こういうことだったのか」と納得がいきました。
全学連
学園紛争
安保闘争
音楽喫茶
LPレコード
桃缶
ミニスカート
高橋和巳
サガン
金子光晴
アポロ
映画の中で出てくるこういった言葉に、懐かしさとほろにがい思い出があるひとにはたまらない映画です。そういう私も学生運動の全盛期からは少し遅れて高校生活や大学生活を送ったのですが、この映画を観ていて一気にあの頃のことが思い出されました。
音楽喫茶で流れるパッフェルベルのカノンや、BGMで流れるバッハの無伴奏組曲やチャイコフスキーの「悲愴」などは、物語の状況をよく表していてとてもよかったです。
こういう生真面目な学生役は成海璃子のハマり役ですね。映画「武士道シックスティーン」や「書道ガールズ」などの時もそうでしたが。
映画館には私のようなある程度歳をとって懐かしい思いで見に来た人たちは勿論ですが、明らかに斎藤工や池松壮亮目当てののファンと思われる若い女性の姿も見られました。映画の当時を知らない彼女たちにとっては、この映画は却って新鮮に映るかもしれませんね。
実力派の若手俳優たちのセリフと演技、丁寧に作られた映像と演出、地味だけれどなかなかいい感じに仕上がった映画を久しぶりに観ました。