やはりトム・ハンクスはこういう歴史物を演らせたら抜群に上手いですね。フォレスト・ガンプしかり、プライベート・ライアンしかり。お世辞にもイケメンとは言えないですが、落ち着いた存在感のある演技は安心して見ていられます。
今回は1950~60年代の米ソ冷戦中の物語です。
アメリカ政府によって逮捕されたソ連のスパイであるアベルの国選弁護人を任せられたドノヴァン(トム・ハンクス)は、周りの非難・中傷を顧みず死刑が当然と思われていた中で無期懲役に減刑させます。その後、ソ連領土で撃墜されたアメリカの偵察機 U-2のパイロットとの捕虜交換交渉に民間人として乗り込むことになるのですが.....。
私は東西冷戦をリアルタイムで経験していますので(年がバレますね)、当時の時代背景やベルリンの壁ができた経緯などもわかっていますが、それらを知らない若い世代にはちょっと感情移入できないでしょうね。特に後半の舞台となる東西に分断されたベルリンの状況などは、東側(共産国側)の陸の孤島だった西ベルリンの位置関係がわかっていないと物語の深刻さが伝わらないと思います。
全体にやや暗い画面で構成されたスピルバーグの演出は、あの「シンドラーのリスト」を彷彿とさせます。そして脚本などに加わったコーエン兄弟のペーソスとユーモアのある展開がいいですね。
意外だったのはソ連のスパイであるアベル役を演じたマーク・ライランス。パッと見はそこらにいる爺さんみたいな地味な感じでしゃべり方も朴訥としていて、これがスパイ?と思わせるのですが、それでいて存在感のある演技がとても素晴らしい! 私は今まで知らなかったのですが、調べたらイギリスでは有名な舞台俳優だそうですね。ハンクス演じる弁護士ドノヴァンとの会話やそこから芽生える二人の信頼関係は、最後の捕虜交換の場面にも生かされ、かなり感動させられました。
ポスターでもわかるように、地味な内容なのでトム・ハンクス主演を前面に打ち出していますが、マーク・ライアンスを始めとする他の俳優陣にもっとスポットが当たってもいいと思います。
最近の映画では珍しい2時間を超える上映時間も余り苦になりませんでした。個人的にはもう少し細部を作り込んでもよかったかな、ぐらいに思っています。
タイトルの「ブリッジ・オブ・スパイ」には二重の意味がありますが、ここでは敢えてそれに触れないでおきましょう。映画の中でも前半に伏線となる映像があちこちにちりばめられ、後半にそれが活かされたりしていてスピルバーグ監督のこだわりが感じられます。
STAR WARSばかりに話題が集まっていますが、その裏でこういった素晴らしい映画が上映されています。今イチオシと言ってもいいと思います。是非映画館に足を運んでください。