「たった一人の反乱」 | 晴走雨読な日々〜Days of Run & Books〜

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晴れた日は山に登り街を走り、 雨の日は好きな音楽を聞きながら本を読む
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先月、作家で評論家の 丸谷才一 さんが亡くなりました。

彼の作品はそれほど読んだことがなかったのですが、小説にせよ随筆・評論にせよ、軽いタッチの文章が多かったのが印象に残っています。小説では「たった一人の反乱」「女ざかり」「輝く日の宮」、エッセイや評論では「食通知ったかぶり」「男のポケット」「文章読本」「好きな背広」などを読んだ記憶があります。

思い立って「たった一人の反乱」を読み返してみました。

たった一人の反乱

主人公は元通産省のキャリア官僚で、防衛庁への出向を蹴って本省から民間の家電会社へ天下った40代の会社員。地方の資産家の孫で小さい頃からずっと女中さんがついている彼が、妻と死別したあとにひょんなことから20才も年の離れたモデルと結婚することになります。

ところが、夫を殺して刑務所に服役していたモデルの妻の祖母が出所して、彼らのところに転がり込んできたときから、住み込みの女中と3人で平穏にすごしていた新婚生活が一変してしまうのです。

「たった一人の反乱」という題名がつけられたのは、登場人物がそれぞれ関わっている社会に対して「反乱」を起こすことがストーリーになっているからです。

主人公の官僚に対する、
女中(お手伝い)の雇われている家に対する、
妻の父親で大学教授の大学に対する、
妻の祖母の警察権力に対する、
妻の元恋人で写真家の権威に対する
それぞれの「反乱」が時にユーモアを交えて展開されます。

そしてこれは、作者の丸谷才一さんの文学界に対する「たった一人の反乱」でもあります。彼はそれまでの純文学こそが最高で崇高なものだという文学者たちの流れに逆らって、わざと猥雑な表現も交えながらとても重いテーマ(市民と社会の関わり)について綴っているのです。

以前にこの小説を最初に読んだときに感じたのは、”ああ、これは現代の『吾輩は猫である』だ”ということでした。普通に読み流すとただのユーモア小説ですが、読み手によって恋愛小説、社会小説、パロディ小説、などいろいろな読み方ができる本です。

難しいことを簡単に書くという事を、いろいろな形で発表してきた丸谷さんの作品はこれからも高く評価され続けると、改めて思いました。