
マリンタワーの足許
山下通りに洒落たカフェを見つけた
「エリオット」
細身の美しいマダムとバリスタの青年が落ち着いた佇まいで、僕を迎え入れてくれた
サーブされたエスプレッソは、口が曲がるほどの濃い一杯
半量過ぎたところで、フレッシュミルクとオーガニックシュガーをたっぷり注ぎこみ、
トロトロにした蜜のような液体をショットで飲み干した
さて、横浜の、いや、ヨコハマの海と久方の対面だ
幸いにして傘を持つ必要もない空だったから、3mの深さはあろう底までが、透き通しで覗けた
これか、奴さんの自慢していたのは
昔の横浜の海は、こんなのとは程遠い容貌だった
大阪の海は、男と女がサヨナラを捨てに来る悲しい色をしている
横浜の海は、欲と裏切りと絶望が底に厚く堆積した、怒りの色をしていた
それが、今では……………

赤レンガ倉庫を目指し、
ぐるりと港の海を巻いて歩いた
大さん橋が雄々しく海上にそびえ立つ
横付けされ停泊中の大型客船が国際港湾都市にふさわしいアクセントになる
しかし
あの頃のような、煩わしいほどのカモメの群れが見えない
キリンの首のようなガントリー▪クレーンも見えなくなった
どうしたんだろう
そういえば、ホームレスもいなくなった
海鳥と“キリン”と乞食は、
港のmustなはずだ
しかし、それが見つからない港が今の横浜なんだ
セイケツな街に変わったんだ
少なくとも、見た目だけなら…………
赤レンガの隣に造られた公園に着いた
絵葉書の奴さんと落ち合う約束の場所
奴さんが来るのを待った
その時刻になった
ても奴は現れない
懐のスマホ携帯が震えた
画面の文字を追った
「遅れるから、山下公園に引き返し、
観光遊覧船の乗り場近くで待ってろ」
そうあった
仕方ない……また歩いて戻るしかない
しかし
奴の姿はなかった
マリーンルージュ号が接岸し、たくさんの人間が公園に吐き出されてきた
その中からひとりの女がこちらに向かって歩いてきた
それは段々近づいてくるうちに、光と影によって形造られた彼女の彫像に、僕の中の記憶が一層のコントラストを利かせ、シャープに美しさを浮きあがらせた
ヨーコだ
港の陽子だ
彼女以外になかった


