
ふ頭に吹き渡る風もすっかり変わった
季節はいきなり一つ追い越し、外出に着重ねが欲しい、そんな頃合になった
マリーンルージュ号から吐き出されてきた人の波の中に彼女を見つけた僕は、今後の展開など読み通すこともおぼつかなかった
口を半開きにした間抜けの体で立ちすくみ、彼女の動静に注意を凝らすのがやっとだった
彼女は、僕の少し手前で立ち止まり、会釈の代わり、一瞬視線だけを足許に向け、そして、すぐに元の姿勢に戻した
「……あら?
ご機嫌よう 戻ってらしたのね
「あぁ、そうだよ
………相変わらずだな、キミは
「相変わらず“綺麗”だね」、と世辞ひとつも言えないでいたら、彼女は唇をツンと尖らせた
そして、この馬鹿者が、とばかりに、僕の脇を足早に過ぎて行った
ゲートの後方から、やたら背の高い壮年紳士風の男が彼女を追いかけ、やがて一緒になると互いに身体をすり寄せ、ニユーグランド方向に消えて行った
相変わらず間抜けた姿を晒す僕だけが、公園にとり残された………
これがその日の出来事だった
もう、陽も傾き始めていた
あとのことは、何も覚えていない
最終寄港でマリーンルージュが錨を下ろし、モヤイを桟橋にくくりつける、そんな時刻
冷徹に記憶を刻印する停止した時間
ぼんやり光を放ちだした街の灯り
人の気配が転げ落ちるよう消えて行く山下公園
男女のラブアフェアに熱気を帯び始めたニューグランドホテル
そして……………
それだけが、確かだった
