青森の実家で、看護婦を目指し勉強していたチヤは、友人宅で「立派な絵描きセンセ」だという棟方に出会う。
何が描いてあるのかわからない絵は、強烈な印象を記憶に残す。一年後、二人は偶然に再会し惹かれ合う。
新聞広告を使っての大胆な告白を受けて妻になったものの、家族を養う収入のない棟方は、一人で東京に行ってしまう。
周囲からは心配されるが、「ゴッホになる」という夫の決意をチヤは疑わない。
芸術のことしか頭にないように見えるが、妻子の命を何より大切にする棟方が、微笑ましく魅力的だ。
棟方も驚くほどの頑固さで、作品を守ろうとするチヤの命がけの行動力に心打たれる。
原田マハ氏『板上に咲く』(幻冬舎)は、芸術家・棟方志功氏と、その妻・チヤの人生を描いた小説である。
[レビュアー]高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)
都内書店にて文芸書を担当