たった1人の書店員さんから始まった企画が、全国の書店員さんの意志で、児童書で史上初の本屋大賞ノミネートに選ばれた。
今回の本屋大賞は「成瀬は天下を取りにいく」が大賞に選ばれた。
その影でこんなドラマが生まれていた。
「知念さんが子どもの本を書いたら絶対おもろいと思うねん」と、書店員さんが言った
企画のはじまりは、今から4年前にさかのぼります。
2020年2月20日、ライツ社の営業・高野がとある書店を訪れたことがきっかけでした。徳島の老舗書店「平惣」さんです。
その書店員さんは、サイン会などを通して知念さんと親しくされていて、以前から知念さんの絵本を作りたいと思っていたそうです。「知念さんが子どもの本を書いたら絶対おもろいと思うねん」(まさかのダジャレですか!?)。高野は、その場で「ぜひやりたいです!」とお返事しました。
知念実希人さんといえば、当時すでに本屋大賞にノミネートされ、数々のヒット作を生み出していた超人気ミステリ作家さん。一方、そのころのライツ社は絵本も小説も出したことはありませんでした。書店員さんからは「ほんまにできるんか?」と何度も聞かれましたが、とにかく「ハイ!」と答えていました、と高野は振り返ります。
そして、70名以上の応募者の中から、児童書出版社2社で20年、編集をしてきた感応が、来てくれることになりました。
さっそくライツ社に入ってくれた感応に「知念さんが書くなら、どんな本がいいか考えてほしい」と伝えました。そして感応が出した企画は「絵本」ではなく「読み物」でした。
「知念さんの本を読み込むと、なんてこの人の文章はピュアなんだと思いました。とても気持ちがいい。それに読んでいると、めちゃくちゃ映像が頭に浮かんでくるんです。知念さんの文章は、絶対に子どもたちに響く。だから、知念さんのよさを伝えるにはある程度の文字量が必要です」
「読み物で勝負したい」という提案の結果、知念さんも同意見で「児童書でいきましょう」と快諾してくれました。
それからしばらく経ったある日、知念さんから初稿が届きました。感応いわく、「最初の原稿がいきなりめっちゃおもしろかったのが、衝撃でした」
送られてきた物語は、「ある夏の日、学校のプールに金魚が泳いでいた」という、なんとも鮮やかで魅力的な事件。
そして、それを陸くん・美鈴ちゃん・天馬くんという、仲良し三人組「ミステリクラブ」が解決していくというストーリー。
だれかが傷つくような殺人事件は起こらない。なのに、トリックは超本格的で、大人がワクワクするほどの伏線回収や謎解きができる。しかも、解決編で明かされる事の真相は、とてもやさしい思いに溢れていました。
知念さんにお聞きしました。「ずっと大人の文芸でやってこられた方が、どうしてこんなにもおもしろい児童書が書けるのでしょうか」。すると「これは大人のミステリとまったく同じ手法で書いたんです」という答えが返ってきました。
こうしていままでにありそうでなかった、小学生から大人まで「親子で楽しめる本格ミステリ」ができました。
「読書は楽しい。そのことを子どもに知ってほしい。
それがこの作品を書いた最大の目的でした」
子どもたちに読書の楽しさを感じてもらえたかどうかは、弊社へ毎日のように届く読者はがきが物語っています。
「本はあんまりすきじゃなかったけど、この本をよんですきになりました」
知念さんのまっすぐな物語は、子どもたちを本の世界へたしかに導き、Gurin.さんが生み出したキャラクターたちは、子どもたちにこんなにも愛されています。
興奮の詰まったはがきがライツ社には毎日届き、日に日にその数は増しています。
発売から10ヶ月、順調に版をのばし『放課後ミステリクラブ』第1巻は10刷7万部、1〜3巻シリーズ累計で12万部を突破。そして、2024年の本屋大賞、児童書で史上初のノミネートを果たしたのです。
こんなにも多くの子どもたちに届いたのは、弊社にたくさん感想はがきが戻ってくるのは、この本の面白さ、価値を信じて店頭に並べてくれた、たくさんの書店員さんがいたからです。
知念さんがこんなことを言っていました。
「今回、児童書が初めて本屋大賞にノミネートしたというのは、書店員さんの意志が集まった結果なんだと思います。“いま本を好きな人”だけでなく“これから本を好きになる人”のために、書店員さんはこの本を選んでくださったんだと思います」
たった1人の書店員さんから始まった企画が、全国の書店員さんの意志で、児童書で史上初の本屋大賞ノミネートに選ばれた。こんなに素敵な物語の一役を、明石という地方にある社員数わずか6人の出版社が担わせていただけたことに、改めて感謝する。
なんとも素晴らしい物語じゃないか。