2024年4月4日号週刊新潮に読みたい本が紹介されていた。
●「二人キリ」村山由佳 集英社
今なお有名な阿部定事件である(阿部サダヲは全く関係ありません)。
いったい阿部定とはどんな人物なのか。狂気なのか。純愛なのか。
小説の力、というものを感じさせる作品だ。
ノンフィクションでもよかったはずだが、村山は敢えて小説という形をとった。
だが、それがいい。
事実に忠実に描かれた定の生涯を創作が補完することで、事実の輪郭がより明確になる。
本書の阿部定は刹那的でセルフコントロールができない。
多くの読者が共感することは難しいだろう。
だが理解できないがゆえに目が離せない。
それこそが本書で醍醐味である。
阿部定小説の中で、決定版たる一冊だ。
大矢博子(書評家)
●「恐るべき緑」ベンハミン・ラバトゥッツ
「オッペンハイマー」が公開された今、読むのにピッタリの小説が、チリ作家ベンハミン・ラバトゥッツの「恐るべき緑」だ。
20世紀科学界の天才たちの研究と人生を描いた4篇とエピローグからなる作品集。
天才と狂人は紙一重と言われるけれど、ここに登場する面々の奇人変人ぶりは圧倒的。
科学やテクノロジーの発展が人類の幸福に寄与する一方でオッペンハイマーの原爆のように取り返しのつかない厄災を生むこともこの小説は描いている。
まさに恐るべき一冊だ。
豊崎由美(書評家)