世の中の「つまらない」の原因は、もっぱら「わからない」なのである。
“むずしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく”
井上ひさしは、上記の言葉を残している。
この世界の経済活動のうちの、20%までが他人を説得する行為からなっており、それに長じる人がビジネスで成功する。
面白い漫才をできる人、面白いドラマ脚本を書ける人、部下に仕事の醍醐味を伝えられる人、顧客に商品のよさを理解させられる人、投資家に事業の可能性を伝えられる人。
どんなことでもうまく説明できる能力は、かくもさまざまなシーンであなたを助けることになる。
しかし、残念ながら、世の中のたいていのことは「難しい」。
そんな、難しいことを、どう伝えるのか。
今回は、その第一歩となる「むずかしいことをやさしく」伝えるための、決定版の方法論を解説したい。
結論、「むずかしいことをやさしく」変換するための最も有効な方法は、具体と抽象のモードを切り替えることである。
「むずかしい」とは、大別して2パターンに分けられる。
第1は、そもそも主張自体が難解で理解できない、というケースだ。
「質的に難しい」と表現することもできるだろう。
第2のパターンは、これに対して「量的に難しい」場合である。
情報過多で、相手の思考がまとまらないのである。
話が質的に難しいとき、皆さんが選択すべき方法は「抽象を具体化する」である。
メッセージをそのまま話してもわかりにくければ、具体的な例を用いて説明する。
話が、量的に難しいとき。たとえば、映画や小説の内容を要約しろだとか、職場で起こっている課題を説明しろと言われた場合、話すべきことが多岐にわたりすぎて、そのまましゃべっても相手に伝わりにくいはずだ。
そうした場合に選択する方法は、「具体を抽象化する」。皆さんがやるべきは、その膨大な事項を、一言、せいぜい2-3にまとめるなら、どういうことになるのかを考えることである。
具体で話していても、結論が伝わらないなと思ったら、シンプルに要点をまず抽出して、それに沿って厳選したエピソードをひもづけていく。
そちらのほうが、相手には内容を理解してもらえるようになるのである。
論理的な話し方にも、具体と抽象という2種類のアプローチがある。
話のむずかしさが質にあるのか量にあるのかを特定し、一方で伝わらなければ、他方を使う。
ぜひ意識的にこれを使い分け、ご自身のプレゼン能力アップに活用してもらいたい。
中川 功一
経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役