映画「吠える犬は噛まない」を観ました。
公開日: 2003年10月18日 (日本)
監督: ポン・ジュノ
出演者: ペ・ドゥナ; イ・ソンジェ(朝鮮語版)
撮影: チョ・ヨンギュ
ネット記事より
ポン・ジュノ監督の長編デビュー作です。
舞台は、中流家庭の住む閑静な団地。
大学教授を目指す非常勤講師のユンジュ。
団地の管理事務所で働くヒョンナムの物語です。
ユンジュは自分の稼ぎが少ない手前、身重の妻に頭が上がりません。
先輩に呼び出されて聞いた話では、同僚が亡くなり教授のポストが一つ空いている。
学長に取り入るように諭されます。
そのための1500₩を捻出するのに頭が痛いユンジュ。
団地で飼ってはいけない犬を見つけ捕まえて地下の箪笥に隠します。
居なくなった飼い犬を探すために貼り紙を管理事務所に持ち込む少女。
ハンコを押しながら代わりに貼り紙を貼ってあげるから学校に行くように伝えるヒョンナム。
3匹の犬が行方不明になります。
1匹目は警備員に料理され、
2匹目のお婆さんが飼っていたよく吠える犬も屋上からユンジュによって投げ落とされます。
その様子を別の屋上からヒョンナムたちが目撃します。
犯人を追いかけるヒョンナム。
逃げるユンジュ。
3匹目は、ユンジュの妻が退職金で買ったソンジュと名付けられた犬です。
ユンジュが散歩に連れていった途中にいなくなります。
妻から退職金で買ったこと、残りのお金はユンジュが教授になるために学長に渡すつもりだったことを話してくれました。
真相を知り妻が自分ことをこれ程までに真剣に考えてくれたことに対して犬につらく当たっていたことを後悔します。
ソンジュを探すためにビラを貼り歩くユンジュ。
それを見かけたヒョンナムは、一緒にビラ貼りを手伝います。
管理事務所からポケベルで呼び出されるヒョンナム。
戻ると所長からいつも席にいないと怒られます。
入院していた2匹目の飼い主だったお婆さんが亡くなったという電話を受けるヒョンナム。
手渡されたお婆さんからの手紙には、屋上に干した切り干し大根を食べてと書いてありました。
屋上の切り干し大根を片付けにいった時に不審な動きの浮浪者を見つけます。
見た先には探していたユンジュの犬が繋がれています。
勇気を出して無事犬を助け出します。
浮浪者に追いかけられましたが、友達のチャンミに助けられます。
笑顔で犬をユンジュのところに届けるヒョンナム。
喜ぶユンジュ。
その後、ユンジュはケーキの下にお金を隠して学長に会いにいきます。
たくさん酒を飲まされて道端で寝転ぶほどに。
一方、管理事務所の仕事を辞めさせられたヒョンナムも悔しさを紛らわすためにチャンミと酒盛りです。
酒が無くなり、追加を買いに行くヒョンナム。
道端で寝転ぶヒョンナムに再会します。
仕事をクビなったとヒョンナムから聞いたユンジュは、罪の意識に苛まれ、
告白することがあると言ってヒョンナムに自分の背中を見せ走り出します。
「この背中に見覚えはないか?」と言いながら。
ユンジュのあとを追いかけるヒョンナムでしたが、「あの日」の追跡劇を思い出すことはなく、ユンジュの脱げた靴を笑って差し出したのです。
その後、教授になったユンジュは教室で講義中。
ただ座った時の目がどこか虚ろげです。
ヒョンナムはチャンミと一緒に山にピクニックに出かけます。
いつか壊して持ち帰ったサイドミラーを光らせながら。
映画が終わります。
実に豊かな映像体験を味あわせてもらいました。
先が読めない展開と魅力的なキャラクターの行動から目が離せません。
これが長編デビュー作とは思えない程、かと言って遊び心も忘れず随所で笑わせてくれました。
地下室で犬を料理する警備員の「ボイラーキム氏」の語りも最高です。
普段出会うことのない二人がもし出会ったらこんなことが起こるかもしれない世界を見せてくれます。
一度目は、追うもの追われるものとして。
二度目は、犬を探しているものと犬を見つけたものとして。
片方は、教授になる望みを叶え、
片方は、テレビに出る夢もかなわず仕事までクビになります。
一見関係がないかのように見えた出会いですが、
何かの余韻を相手に与えます。
骨太のストーリーがあるわけでなく小さなエピソードの積み重ねで紡ぐ世界にはタペストリーのような多彩な魅力があります。
振り返っても好きなシーンが多い作品です。
ユンジュを追いかけるヒョンナムがいきなり開いたドアに激怒して倒れるシーンで空を飛行機が飛んでいる
シーンが挟まれたりするシーン。
なにより好きなのは、ヒョンナムが浮浪者からユンジュが探している犬スンジャを助けに行くシーンです。
隠れていた物陰から黄色いフードをかぶり意を決して
突撃する時になぜか同じく黄色いフードを被った人々がいきなり他の団地の屋上に現れて金色の紙吹雪をまきながら歓声を上げます。
さながらヒョンナムの応援団といった感じです。
このシーンが困難に飛び込む自分をやる気にさせるかのようなヒョンナムの心象風景を見事に表しています。
映画を観て以来、意を決して何かをやる時にいつもこのシーンを思い出してしまいます。
後は、狭い文房具店の中で寝っ転がるチャンミの横にヒョンナムが自分も入り込もうとして寝っ転がるシーンも二人の仲の良さが一目でわかるシーンです。
警備員がボイラーキム氏の話をする時にキム氏が押し倒されたと話した時にカメラもサッと演じる警備員を追いかけて横移動させるシーンも話の臨場感を高めてくれました。
韓国では人気が出なかったそうですが、自虐ネタ満載のこの映画は見るに忍びなかったでしょう。
韓国人はルールを守らないから始まり、犬を食べる習慣、賄賂を渡さないと出世や職にありつけない、手抜き工事、殺人隠蔽、妊娠した女性は働けない、少ない退職金などなど。
確かに犬を食べたり殺したりのシーンは犬好きの人は耐えられないでしょう。
その辺をブラックユーモアと取れるかどうかもこの映画の評価が分かれるところです。
観るたびに新しい魅力が発見できる
この一作にポン・ジュノの映画監督としての才能を感じました。
極めつけは、ペ・ドゥナ演じるヒョンナムの自然体の演技の魅力です。
自分のことはさておいて人のために自然に体が動いてしまうおせっかいも嫌な感じを与えません。
鼻血を出しながらもクビになりながらも困っている人の親身になって行動するヒョンナムに慰められます。
その姿は、「ハチドリのひとしずく」を思い出させます。
森火事に一滴ずつ水を運ぶハチドリに対して、森から逃げた動物たちは「そんなことして何になるのだ」と笑います。ハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えました……。
「ハチドリのひとしずく」から
常に今の自分にできることに一生懸命で時にキュートな姿に癒やされるのはユンジュだけではありません。
きっと、観る人の心にいつの間にかヒョンナムの魅力が入り込んでしまう映画です。
おせっかいは世界を救う。
あなたのお気に入りはどこのシーンですか?
こんなふうに映画は始まります。