渋谷のユーロスペースにて、6/20(土)より公開中の映画「はちどり」ですが、2020年6月19日の日経新聞夕刊のシネマ万華鏡で取り上げられていました。
映画「パラサイト」に対して、「その家族像があまりに古い」と異をとなえた日本映画大学准教授ハン・トンヒョン氏の評論を紹介していました。
「社会の格差という『大きな物語』に家族内の差異や葛藤が覆い隠されるような構造」で「私には『後退』に見えてしまう」(朝日新聞2月26日朝刊)
記者は続ける。
これは腑に落ちた。
それとは対照的に、「大きな物語」はかたらず「家族内の差異や葛藤」のリアルな内実に、光をあてるのが「はちどり」だ。
家族だけではない、友人、教師など、中学2年生の少女ウニのこころにとびこんでくる周囲の人々のすがたを、かざりけなく見つめる。
韓国の映画誌「シネ21」の2019年度韓国映画ベスト・テンで「パラサイト」につぐ第2位となった。
時代背景は1994年。7月に北朝鮮のキム・イルソン国家主席が死に、10月に漢江にかかるソンス大橋が崩落する。
両親は二人で餅屋をいとなみ、兄と姉の5人家族で団地に住む。
漢文塾の新しい先生ヨンジは、女性だがタバコを吸い、他の教師とはちがい競争原理に生きていない。目をひらかされる思いのウニ。
日記のように淡々とすすむが、一方で時代と歴史への意識が緊張感をかもす。
1981年生まれの女性キム・ボラ監督の長編第1作。みずからの少女時代の経験をもとにした創作だ。
映画評論家 宇田川幸洋
「パラサイト」に比べたら、おそらく何分の1かの制作費と撮影日数とスタッフの数ではないかと思われます。
先の評論にあったように、家族内の差異や葛藤は、「はちどり」の方が深く掘り下げられていたように思います。
一方向からだけではなく多面性に満ちた人物の描き方や結論を見ている人に委ねる開かれた演出方法など、映画の魅力は尽きません。
韓国で、単館上映で1万人観客を呼べればまずまずのヒット作と言われる中で、15万人の観客を動員したことは、この映画が見る人を共感させる力を持っている証ではないかと思います。
女性監督ならではの繊細な映画で、ある意味「パラサイト」にも少しも劣ることなくその存在感を発揮させていると思います。