それがなくなっている。
一体、いつ誰が何の目的でそれを取ったのか?
都内の自宅には、5人で住んでいる。
京王線上北沢駅から徒歩10分。
新宿には30分あれば行ける距離だ。
家には、私と妻。
それと4月から入社が決まった次男。
私大に入学が決まった三男。
4月から専門学校に入学する次女の5人が住んでいる。
自分以外の4人が怪しかった。
でも、一体誰なのかはわからない。
妻も日中は仕事に出ているし。
家にいたのは、3人の子供たちだ。
次男は、二階でパソコンを使って会社の研修を受けていた。コロナの影響で出社がまだ許されていなかった。
次女は、二階で勉強や玄関の水槽にいる金魚の世話をしていた。
三男も飼っているチワワをかまったり、スマホで韓国ドラマを見ていた。
1日中彼らの行動を見張っていたわけじゃない。誰の仕業かは推測不可能だ。
誰もが犯人かもしれないし、
犯人じゃないかもしれなかった。
仕事を終えて、玄関からトイレに入る。
トイレの便座を上げた時に、
すぐにわかった。
気になって最近いつもそこにあるのを見ていたから。
あるはずのそれがなかった。
よく見ると便器もピカピカに光っている。
床も水拭きしてあった。
ほこりひとつ落ちてやしない。
トイレの横の洗面台もキレイになっている。
誰が汚れを取ったのだろう。
その日、お客が来たとは聞いていない。
外から入ってきた人間とは考えられない。
とすると中にいたのは家族だけ。
いくら考えても思い当たる人が浮かばない。
本人もまんまとやり過ごせたなと自分の完全犯罪ぶりに酔いしれているかもしれない。
ただ、できれば犯人に災難が降りかからないことを祈るのみである。
思わぬ臨時収入とか。
病気やケガから守られたり。
人生で大事な出会いがあったりなどの。