人に依存してませんか?
こんな言葉はどうですか?
【記者:養生は人に依存していてはダメだということですね】
世間でいわれていることを頭からやってもダメですね。
仏教に「天上天下唯我独尊」という言葉があるでしょう。
あれはただ自分は尊いんだといっているわけではない。
唯我、たった1人の我なればこそ尊しということです。
世界には何十億もの人がいますが、
1人ひとり全部遺伝子が違う。
これは驚くべきことです。
そのたった1人の自分ときちんと向き合うことが凄く大事です。
【記者:たった1人の自分と向き合う】
科学や医学、あるいは治療というのは、
一人ひとりの唯我には向き合えないんです。
医学の教科書には普遍的なことしか書いてないし、
治療というのはそれをもとに行われるわけですからね。
逆に、養生というのは個性と向き合うことなんです。
だから他人にはよくても自分には効かないこともある。
例えば、早寝早起きが健康にいいといわれていますが、
私は何十年も夜行生活を続けてきました。
打ち合わせとかインタビューを済ませて、
1人になって執筆を始めるのは、
いつも深夜の12時からです。
それが朝5時頃に終わると1時間くらい本を読んで、
寝るのはだいたい朝6時。起きるのは午後1時か2時。
こういう夜行性の生活は、
医師や科学者たちに言わせると非常識のきわみなんですね。
【記者:それでも人一倍お元気ですね】
それは一人ひとり違うからです。
多くの人には早寝早起きがいいかもしれないけれども、
100人に1人、1千人に1人、1万人に1人くらい
例外があるかもしれない。
その例外は自分かもしれない。
実際、私にはこれが合っている。
もし午前中にどうしても起きなければならない時は、
3、4時間しか睡眠がとれなくても起きる。それがいいんです。
つまり、規則正しいルーティンの生活を送っている人は、
非常時に弱いんです。
ですから海外旅行に行って時差に悩まされるのは、
普段から規則的な生活をしている人がほとんどでしょう。
私なんか乱世に生きている野性の動物と思っているから、
不規則で動的な生活を大切にしているわけです。
普通は7、8時間眠るけれども、時には徹夜もするし、
2、3時間の睡眠で起きることもある。これがいいんです。
【記者:変化があるほうがいいと】
動的に生きなければダメでしょう。
それから、よく噛んで食べろともいいますね。
だけど30回も50回も口の中でグジャグジャ噛んで、
流動食のようにして胃に流し込んでいたら、
胃が怠けると思うんです(笑)。
胃腸というのは本来、釘でも溶かすぐらいの
物凄い野性的な力を持っている。
過保護にし過ぎるとそういう力がどんどん衰えていくんです。
私も普段はよく噛みます。
だけど週に1日か2日はあまり噛まない。
ご飯でもなんでも飲み込んで
時どき胃腸に警告を与えてやる(笑)。
でないと彼らは野性的な力を失っていいかげんになってしまう。
ベースで自分の生活を守りながら、
時どきそういう波乱を起こすんです。
音楽でいう変拍子。スウィングみたいなものです。
人間はそうやって動的に生きなきゃいけないと思うんです。
「私の養生法 ~動的に生きる~」
五木寛之(作家)
『致知』2012年12月号より
ひとことキーワード
たった1人の自分ときちんと向き合うことが凄く大事です。
養生というのは個性と向き合うこと。
人間は動的に生きなきゃいけないと思う。
石井ゆきお