色をなくした画家さんと、奇跡のパレット



 くまさんがやってきたのは、見晴らしの良い「七色ヶ丘」のふもとにあるアトリエです。
 そこでは、画家のヤギさんが、大きなキャンバスを前に筆を止めていました。
 ヤギさんは森で一番の景色描きですが、今日はどうしても「本当の空の色」が描けずに困っていました。
「こんにちは、ヤギさん。街の画材屋さんから、新しい筆のセットが届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、ヤギさんはため息をつきながら、ぼんやりと空を見上げました。
「ありがとう、くまさん。でも、どれだけ絵の具を混ぜても、納得がいかないんだ。空にはもっと、深くて、優しくて、透き通るような色があるはずなのに」
 ヤギさんのパレットには、濁ってしまった青い色がいくつも並んでいました。
 くまさんは、制服の二番目のボタン――カワセミさんからもらった「青い小石のボタン」を、そっとキャンバスに近づけました。
「ヤギさん、このボタンの色を見てください。これは川の流れと、空の光が混ざり合ってできた石の色なんです」

 青いボタンが放つ澄んだ光が、真っ白なキャンバスの上に、さらさらと流れるような青い影を落としました。
 ヤギさんの瞳が、驚きで大きく見開かれました。
「……これだ。私が探していたのは、この『生きた青』だよ」
 くまさんは続けて、三番目の「綿毛のボタン」をヤギさんの筆先にそっと触れさせました。
「この綿毛は、風の軽さを知っています。これを使えば、空を流れる雲の柔らかさも描けるかもしれません」
 ヤギさんは、新しく届いた筆を手に取ると、迷うことなくキャンバスへ走らせました。
 青い小石の輝きと、綿毛の柔らかい質感。
 それらがヤギさんの筆を通して、キャンバスの上に、吸い込まれるような美しい秋の空を描き出していきました。
「くまさん、ありがとう! 君のボタンのおかげで、風が吹き抜けるような絵が描けたよ」
 ヤギさんは、今までで一番自信に満ちた笑顔で、最後の仕上げのサインを入れました。
「この絵が乾いたら、森のみんなに公開するよ。空はいつでも、僕たちの頭の上でこんなに美しいんだってね」

 くまさんは、絵の中から吹き出してくるような爽やかな風を感じながら、また一歩、歩き出します。

 ボタンたちは、行き詰まった心に「新しい視点」を届けてくれる、不思議な窓のようでもありました。

 次は、森の古い図書館の奥。
 本を愛しすぎて、ちょっとだけ寂しがり屋になってしまった「本の虫」を訪ねます。


    

影の谷のコウモリと、闇を照らす地図


 くまさんがやってきたのは、大きな岩が重なり合う「影の谷」です。
 ここは一日中太陽が届かない場所で、コウモリのバット君がひとりで暮らしていました。
 バット君はとても耳が良いのですが、「僕は暗闇の中にしかいられないから、誰の役にも立てないんだ」と思い込んでいました。
「こんにちは、バット君。森の音楽隊から、新しい音叉(おんさ)が届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、岩の隙間から小さな翼を広げて、バット君がひょっこりと顔を出しました。
「ありがとう、くまさん。でも、こんな立派な道具、僕にはもったいないよ。僕はただ、暗い谷底で音を聞いているだけなんだから」
 バット君は、自分の影に隠れるようにして、小さく丸くなってしまいました。

 くまさんは、袖口にある「銀色の枯れ枝のボタン」を、そっとバット君の近くに差し出しました。
「バット君、このボタンを見てごらん。これは夜の森を見守るフクロウさんの光なんだ。暗闇を知っているからこそ、見える光があるんだよ」
 銀色のボタンが放つ穏やかな光が、バット君の大きな耳を優しく照らしました。
 すると、バット君は耳をピクピクと動かして、顔を上げました。
「くまさん……この光を見ていると、今まで怖かった闇が、なんだか温かい毛布みたいに感じられるよ」
 くまさんは続けて、一番下の「琥珀のボタン」をバット君に見せました。
「これはお日様の蜜のボタン。君が谷底で見つけた素敵な音を、このボタンに教えてくれないかな。そうすれば、僕はそれを光の国の仲間たちに届けることができるんだ」

 バット君は勇気を出して、届いたばかりの音叉を岩にコツンと当てました。
 谷中に澄んだ音が響き渡り、琥珀のボタンがその振動を受けて、ト音記号のような形に光りました。
「わあ……! 僕の音が、光に変わった!」
 バット君は嬉しくなって、谷のあちこちで奏でられる「岩の音」や「風の音」を次々と教えてくれました。
「ありがとう、くまさん。僕、この谷の音を集めて、森のみんなを案内する『音の地図』を作ってみるよ!」

 くまさんは、バット君の楽しそうな羽音を見送って、また一歩、歩き出します。

 ボタンたちは、コンプレックスさえも「その人にしかない才能」に変えてしまう魔法を持っているようです。

 次は、森の広場で大きなキャンバスを広げている、少しだけ色が足りなくて困っている画家さんを訪ねます。


    

湖の白鳥と、宛名のない返事



 くまさんがやってきたのは、朝霧がうっすらと立ち込める「鏡の湖」です。
 そこには、一羽の美しい白鳥、シノンさんが静かに浮かんでいました。
 シノンさんは、もう何年も、宛名の消えてしまった一通の古い手紙を大切に守り続けています。
「こんにちは、シノンさん。今日は、湖の向こう岸の郵便局から、不思議な香りのする栞が届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、シノンさんはゆっくりと羽を休め、悲しげな瞳を向けました。
「ありがとう、くまさん。でも、このお手紙を誰に返せばいいのか、私はまだ思い出せないの。思い出が霧の中に消えてしまったみたいで」
 シノンさんの守る手紙は、何度も読み返されたのか、紙が薄く、透き通るようになっていました。
 くまさんは、制服の二番目のボタン――カワセミさんからもらった「青い小石のボタン」を、そっと湖の水面に近づけました。
「シノンさん、このボタンは川の底で、ずっと水の流れを見守ってきた石なんです。水はすべてを覚えています。このボタンの輝きが、あなたの記憶を呼び覚ましてくれるかもしれません」
 青いボタンが放つ澄んだ光が、湖の波紋と重なり、シノンさんの白い羽根を青く染めました。

 すると、シノンさんの瞳の奥に、少しずつ色が戻ってきました。
「……思い出したわ。これは、遠い空へ旅立ったツバメさんが、春の訪れを約束してくれた手紙だった」
 くまさんは続けて、袖口の「銀色の枯れ枝のボタン」をシノンさんに見せました。
「これはフクロウさんの月光の枝です。夜が来ても、この光があれば、旅人は迷わずに戻ってこれます。あなたの想いも、きっと届きますよ」
 シノンさんは届いた栞を手紙に挟み、優雅に首を伸ばしました。
「くまさん、ありがとう。私、この手紙に『待っているわ』と一言添えて、風に託してみるわ」
 シノンさんが羽ばたくと、湖の霧が晴れ、温かな光が水面に降り注ぎました。

 くまさんは、白鳥の力強い羽音を聞きながら、また一歩、歩き出します。

 ボタンたちは、失くしてしまった大切な「記憶」を、そっと手繰り寄せる糸のようでもありました。

 次は、森の端っこにある、少しだけ寂しい「影の谷」。
 自分なんて誰の役にも立てないと思っている、小さなコウモリ君を訪ねます。


    

わがままなリスのお嬢様と、秋色のブローチ




 くまさんがやってきたのは、森で一番立派なクルミの木の上にある、豪華な屋敷です。
 そこには、リスのお嬢様、セシリアさんが住んでいます。
 セシリアさんは美しいものが大好きですが、最近は「何を見ても退屈だわ」と、周りの仲間を困らせていました。

「ごきげんよう、セシリアさん。遠い南の国から、色鮮やかな絹の糸が届きましたよ」
 くまさんが声をかけると、セシリアさんはバルコニーから顔を出し、ふいっと横を向きました。
「あら、くまさん。糸なんて、もう山ほど持っているわ。どれも同じに見えて、ちっともワクワクしないのよ」
 セシリアさんは、贅沢な調度品に囲まれながら、寂しそうな瞳をしていました。
 くまさんは、制服の一番下のボタン――「琥珀のボタン」を、そっと指で温めました。
「セシリアさん、このボタンを見てください。これはミツバチたちが集めた蜜が、お日様の光で固まったものなんです」
 琥珀のボタンが放つ、蜂蜜のような黄金色の輝きが、セシリアさんの瞳に映り込みました。
「……なんて温かくて、美味しそうな色かしら。私の宝石箱の中には、こんなに優しい光はないわ」
 くまさんは続けて、胸元の「ドングリのボタン」をセシリアさんに見せました。
「これは、あなたの隣に住んでいるリスさんが、私にくれたものです。宝石ではありませんが、誰かを想う気持ちが詰まっています」

 セシリアさんはハッとして、自分の手のひらを見つめました。
 彼女は、高価なものばかりを集めるうちに、すぐそばにある「誰かの真心」を見落としていたことに気づいたのです。
「くまさん、ありがとう。私、この絹の糸で、みんなに贈るためのブローチを編んでみるわ」
 セシリアさんは届いた糸を大切に抱え、初めて自分から、誰かのために微笑みました。
「次に会う時は、あなたにも一つ、とびきり秋らしいブローチをプレゼントするわね!」

 くまさんは、セシリアさんの弾むような声を見送って、また一歩、歩き出します。

 ボタンたちは、持ち主の心ひとつで、どんな宝石よりも輝くことを教えてくれるようです。

 次は、森の奥にある静かな湖のほとり。
 ずっと昔に書かれた「宛名のない手紙」を守り続けている、一羽の白鳥を訪ねます

4月いっぱいにようと思っていた毎日更新、せっかくだからGW終わるまで延長してます。





小説家になろう まよい森

毎朝6時更新 5/10(日)まで、その後不定期更新(月1〜2)





宣伝しなくても自作を読んでほしいというつぶやきを見かけましたが、小説投稿サイトも増え、色んな方が毎日投稿しているのに宣伝なしで読んでもらうのはなかなか厳しいんじゃないかと……




読んで評価必ず(ブックマークとか♡とか⭐︎とか感想とかレビューとか)してくださいを数時間置きとかはやり過ぎだけど、全く宣伝しないよりかは誰かに届く可能性はあるのかな。





まぁ難しいけれど、宣伝は可能性を広げるために時々で良いからした方が良いと思う。




読まれなくて良い、趣味で自分だけ楽しければ良いなら別に良いけれど。




自分もお友だちや仲良くしてくれる方だけ読んでくれたら割と満足だからそんなに頻繁に宣伝してる方じゃないけど、それでも新しく作品と出会ってくれる方がいるから大事だなって思う。





GWはほぼお仕事で休みも変則でせっかく作ったストックを消化中……





ギリギリじゃないけどまた書かないとあっという間にギリギリになるからまた創作の時間作らないと。




頑張ります。






あと、Caitaで嫌われているけど換金するまでは残ろうと思っているわけですが、相手の方、Xでブロックしたのも悪口言ってたのもバレてないと思っているようで、読者機能で色んな人の作品をまとめて紹介できる機能で作品紹介してきて苦笑いするしかなかった。




サイト内で話題の作品集めてるのに載せないわけにはいかないから渋々だろうけど、どんな気持ちで載せてんだろうと思う。




いつかネタになると思って寛大な心で今後の行動を見守ろうと思う。



    

疲れ目のシカさんと、一秒の宝物



 くまさんがやってきたのは、森の広場に立つ大きな時計塔の下です。
 そこには、シカのトトさんが営む時計修理店がありました。
 トトさんは、森中の時計を正しく動かすために、朝から晩まで目を凝らして働いています。
「こんにちは、トトさん。街の大きな時計台から、お手紙が届いていますよ」
 くまさんが声をかけましたが、トトさんは細かい部品を見つめたまま、生真面目な顔で答えました。
「ああ、くまさん……悪いけれど、そこに置いておいてくれないか。今は一分一秒が惜しいんだ。みんなが『時間が足りない』と、僕のところに時計を持ち込んでくるものだから」
 トトさんの目は少し赤く、肩はカチコチに凝っているようでした。
 くまさんは、袖口にある「銀色の枯れ枝のボタン」を、そっとトトさんの作業台に近づけました。
「トトさん、このボタンを見てください。これはフクロウさんの月光の枝です。一晩中、静かに世界を見守ってきた光なんですよ」
 銀色のボタンが放つ穏やかな輝きが、トトさんの手元の細かな歯車を優しく照らしました。

 すると、せわしなく動いていたトトさんの手が、ふっと止まりました。
「……なんだか、懐かしい光だ。夜の森の、あの静かな空気を感じるよ」
 くまさんは続けて、一番上の「ドングリのボタン」をトトさんに見せました。
「このドングリは、芽吹くまでに何年も土の中で待っていたそうです。トトさん、一秒を削るのも大切ですが、一秒を味わうことも、時計屋さんには必要かもしれませんね」
 トトさんは深く息を吐き、眼鏡を外して目を閉じました。
 銀色の光と、土の匂い。
 それらに包まれているうちに、トトさんの心の焦りが、雪が溶けるように消えていきました。
「……そうだね、くまさん。僕が時間を急かしてどうするんだ。時計は、みんなが幸せに過ごすための道具だったはずなのに」
 トトさんは届いた手紙をゆっくりと開き、温かいお茶を淹れ始めました。
「ありがとう、くまさん。おかげで、一番大切な『心のネジ』を巻くことができたよ」

 くまさんは、トトさんの穏やかな笑顔を見届けて、また一歩、歩き出します。

 くまさんの制服にあるボタンたちは、ときには「止まる勇気」を教えてくれることもあるようです。

 明日は、少しわがままな、けれど寂しがり屋な「お嬢様」のところへ向かいます。


    

雨音のカエルと、虹色のインク




 くまさんが次に向かったのは、大きなハスの葉が傘のように並ぶ「しずく池」のほとりです。
 今日はあいにくの雨模様でしたが、カエルのケロさんは、雨が降るのをずっと待っていました。
 ケロさんは、雨粒が葉っぱに当たる音を楽譜に書き留める、森の作曲家なのです。
「こんにちは、ケロさん。遠い海の向こうから、不思議な音色の貝殻が届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、ケロさんはハスの葉の下から、自慢の長い足を伸ばして現れました。
「おや、くまさん。こんな雨の中を……でも、せっかくの貝殻も、この暗い空模様じゃ、いいメロディが思い浮かばないんだ」
 ケロさんは、どんよりとした灰色の空を見上げて、小さくため息をつきました。
「雨の音は綺麗だけど、色が足りないんだよ。僕の楽譜も、なんだか寂しい色ばかりになってしまって」

 くまさんは、制服の三番目のボタン――野うさぎさんからもらった「綿毛のボタン」をそっと撫でました。
「ケロさん、このボタンにはね、風が運んできた『光の記憶』が詰まっているんだよ」
 くまさんが綿毛のボタンを雨空にかざすと、不思議なことが起こりました。
 空から落ちてくる雨粒が、ボタンに触れた瞬間にキラキラと弾け、小さな「虹色のしずく」に変わったのです。
「わあ……! 見てごらん、ケロさん。雨の中に、あんなにたくさんの色が隠れているよ」
 くまさんは続けて、一番下の「琥珀のボタン」を、ケロさんの真っ白な楽譜に近づけました。

 すると、琥珀の温かな光が虹色のしずくと混ざり合い、楽譜の上に色鮮やかなインクとなって広がっていきました。
「すごいよ、くまさん! これなら、光のダンスのような曲が書けそうだ」
 ケロさんは届いた貝殻を耳に当て、虹色のインクをペンに浸して、新しい音符を書き始めました。
 雨の音に、ケロさんの楽しげなハミングが重なり、しずく池はたちまち賑やかな音楽会に包まれました。
「ありがとう、くまさん。次の雨上がりには、森中に響く虹のシンフォニーを届けるよ!」

 くまさんは、雨音のリズムに合わせて小さく足踏みをしながら、また歩き出しました。

 どんなに暗い空の日でも、くまさんのボタンは、誰かの世界に色を添えることができるようです。

 次は、森の入り口にある大きな時計塔のそば。
 時間に追われて少しお疲れ気味な、シカの時計屋さんを訪ねます。


    

おっちょこちょいなキツネと、
水面のステップ




 くまさんが次に向かったのは、色鮮やかな落ち葉が敷き詰められた「もみじ広場」です。
 ここでは、キツネのキコちゃんが一生懸命にダンスの練習をしていました。
 キコちゃんは森のダンス大会に出場する予定ですが、ステップを踏むたびに自分の足がもつれてしまい、困った顔をしていました。
「こんにちは、キコちゃん。ダンスの衣装に使う、金色のリボンが届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、キコちゃんは真っ赤になって立ち止まりました。
「あ、くまさん……リボンは嬉しいけれど、私、ちっとも上手に踊れないの。なんだか自分の動きが、重たくてギクシャクしているみたいで」
 キコちゃんは、自分のふさふさした尻尾を寂しそうに見つめました。
 くまさんは、制服の二番目のボタン――カワセミさんからもらった「青い小石のボタン」を指でそっと弾きました。
「キコちゃん、このボタンを見てごらん。これはね、激しい川の流れに揉まれても、ずっと涼しい顔をしていた石なんだ」
 キコちゃんが、透き通った青いボタンをじっと見つめます。
「踊る時は、川の流れを思い出して。水は岩にぶつかっても、形を変えて、しなやかに、さらさらと流れていくでしょう?」
 くまさんは、青い小石のボタンをキコちゃんの足元にかざしました。

 すると、ボタンに反射した光が、地面の上で水面のようにキラキラと揺れ動きました。
「この光の波を追いかけてごらん。君の足も、きっと水みたいに自由になれるはずだよ」
 キコちゃんはその光の粒を追いかけるように、もう一度ステップを踏み出しました。
 今度は不思議なほど足が軽く、まるで水の上を滑っているかのような、しなやかなダンスになりました。
「わあ! くまさん、見て! 私、流れるみたいに踊れるわ!」
 キコちゃんは、届いたばかりの金色のリボンを尻尾に結び、軽やかに一回転しました。
「ありがとう、くまさん。本番では、心の中に青い川を流して踊ることにするわ!」

 くまさんは、キコちゃんの華やかなダンスを見送って、また一歩、歩き出します。

 ボタンたちは、ときには勇気を、ときには「コツ」を教えてくれる先生のようでもあります。

 次は、森の奥にひっそりと佇む、雨が大好きなカエルさんのところへ向かいます。


    

土の中の発明家と、勇気の設計図


 くまさんが次に向かったのは、大きなブナの木の根元にある、小さな盛り土の玄関です。
 ここは、モグラのモグ君の家です。
 モグ君は森一番の発明家ですが、最近は少し元気がないと噂されていました。
「こんにちは、モグ君。街の時計屋さんから、小さな歯車が届いていますよ」
 くまさんが声をかけると、土の中からメガネをかけたモグ君が、ゆっくりと顔を出しました。
「ああ、くまさん……せっかく届けてくれたけれど、今の僕にはそれが必要ないかもしれないんだ」
 モグ君は力なく笑って、土の上に座り込みました。
「実はね、空を飛ぶ機械を設計しているんだ。でも、土の中で暮らす僕に、空のことなんてわかるはずがないって、みんなに笑われちゃってね」
 モグ君の傍らには、破り捨てられた設計図がいくつも散らばっていました。
 くまさんは、一番上のボタン――リスさんからもらった「ドングリのボタン」をそっと撫でました。
「モグ君、このボタンを見てごらん。これはね、深い土の中で夢を見ていたドングリが、リスさんの優しさで僕の制服のしるしになったものなんだよ」
 モグ君が、つやつやしたドングリのボタンをじっと見つめます。
「土の中にいても、空を目指す心があれば、それはもう立派な空の一部なんだと思うよ」
 くまさんは続けて、袖口の「銀色のボタン」をモグ君の設計図にかざしました。
「これはフクロウさんの月光の枝だよ。暗い土の中でも、この光があれば、夜空の美しさを描けるはずさ」
 銀色の光が、設計図の白い紙の上でキラキラと踊りました。
 モグ君の瞳に、再び小さな情熱の火が灯りました。
「……そうだね。僕の手は泥だらけだけど、心まで地面に埋めておく必要はないんだ」
 モグ君は届いたばかりの歯車を受け取ると、鉛筆を握り直しました。
「くまさん、ありがとう。次に君がここを通る時は、土の中から雲を掴むような、すごい発明を見せてあげるよ!」

 くまさんは、モグ君の力強い握手を見送って、また歩き出しました。
 くまさんの制服にあるボタンたちは、誰かの背中をそっと押す「お守り」のようでもあります。

 次は、森の広場でダンスの練習をしている、少しおっちょこちょいなキツネさんのところへ向かいます。