夕顔の花と静かな約束
焼き魚の香ばしい余韻に浸っていると、庭の垣根のあたりから、かすかに甘い香りが漂ってきた。
「葵君、見てごらん。花が開いたよ」
青葉さんがランタンの光をそっと向けると、そこには大ぶりの真っ白な花が、ぽっかりと暗闇の中に浮かび上がるように咲いていた。
「夕顔……?」
「そう。昼間は固く蕾を閉じているのに、夜になるとこうして静かに白い花を咲かせるの。神条さんが『夜の川べりを照らす灯りみたいだ』って、とても大切に育てていたのよ」
月光とランタンの優しい光を浴びて咲く夕顔は、どこか儚く、それでいて気品に満ちていた。
風が吹くたびに優雅に揺れ、甘い香りを周囲に振りまいている。
「神条さんはね……秋が来るといつも言っていたの。『夏が終わるのは寂しいけれど、次の夏にまた会える楽しみが増えるんだ』って」
青葉さんは白く咲き誇る夕顔を見つめながら、静かに語りかけた。
「葵君。この夏が終わって都会に帰っても……また来年、この川べりに戻ってきてくれる?」
「うん、絶対に戻ってくるよ。おじいちゃんの家も、この川も、青葉さんと過ごすこの時間も……僕にとって大切な場所になったから」
僕が力強く頷くと、青葉さんは胸を撫でおろすように、この夏一番の温かな笑顔を浮かべた。
柱に吊るされた風鈴が、二人の約束を祝福するように、チリンと深く清らかな音を響かせた。
