(6th公演。マダム・ヴォルフのコレクションシーンで、娼婦たちのアピール)
脚本の配布から2週間がたち、アラムニーメンバーの作品研究も進んでいるはず。
設立25周年の節目として、多くの候補作品がプレゼンテーションされ、質疑応答を経て投票により選ばれたのが、ウィーンミュージカル「エリザベート」。
「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」のように、世界中で上演される名作舞台に、無料公演を続ける学生劇団のアラムニーが、どこまで迫れるか。
コロナ禍をへて、ニューヨークのブロードウェイや、ロンドンのウエストエンドなど、ミュージカルの聖地でも、上演時間の短縮が常態化している現在。
アラムニースピリットである、「学生だからこそできる、人間の本質に迫る純度の高い舞台」を具体化するために、全員の英知を結集する。
執筆にあたっては、クンツェ・リーヴァイの描くオリジナルの虚実を整理しつつ、史実を研究してストーリーを引き締め、ウィーン発の薫り高い内容を心掛けた。
エリザベート・トート・フランツのトライアングルを軸にするが、ストーリーをけん引するルキーニはじめ、ゾフィーやリヒテンシュタインたちも、重要な役割だ。
特に力を入れたのが、日本人に分かりづらいシュヴァルツェンベルク公爵(史実は侯爵)と、革命リーダーのエルマーの二人。
貴族の最高位である公爵のシュヴァルツェンベルクは、フランツの最側近であるため、皇后となったエリザベートにも直言できる立場にある。
宮廷に入った若き皇后エリザベートに死の影が迫り、「最後のダンス」で自信たっぷりにトートが歌い踊る。
不安に駆られ、愛する皇帝フランツを必死に探し求めるエリザベート。
かねてより、若き皇后の不安な心理状態を憂うシュヴァルツェンベルクは、「あなたに足りないもの」について語る。
その言葉を理解し、光を見出す皇后は、「どんなにあがき苦しんでも、命ゆだねる先へ!」と決意を新たにするのだ。
このシーンにより、人間の持つ根源的な悩みを、「どう生きるか」に転化させ、深く心理のひだに迫ることができる。
この舞台を観劇する誰もが、エリザベートと自分自身を重ね合わせられるように。
そしてエルマーは、オーストリア帝国に併合されるハンガリー王国の、誇り高い元貴族出身である。
まさに今、ロシアに国土の割譲を迫られ、苦難のただなかにあるウクライナの人々のように、自由のために命もいとわず独立への活動を進めるのだ。
それを支えるマヌエラや革命派の若者たちの、知略に富む行動が、皇太子ルドルフも味方に引き入れてゆく。
その魂の高揚感は、「ハンガリー独立運動」の激しい歌とダンスへつながり、客席と舞台が一体化して、大きな感動を巻き起こすに違いない。
アラムニーメンバーの「青春の可能性を求め続ける」強い気持ちが、このミュージカルを、新たな高みへいざなうと信じている。