(決闘で死を悟ったティボルトの言葉を聞く、恋人エルザ。)
(思わぬ成り行きで、致命傷を負ったマキューシオの運命を嘆くシルバーナ。)
4月も半ばとなり、大学での新学期を迎えたアラムニーメンバーは、25thへの仮結成を終え、次回公演について調整に入った。
今月の27日が本結成であり、出演者の数が確定するとともに、演目も決まる。
私の役割は、5つほどに絞られる作品の解説と、入団を決めた新メンバーのフレッシュメソッドである。
テキストはすでに新演技長へ送付済であるから、予習の上参加してもらう。
内容は、ニューヨーク・アクターズスタジオをイメージし、舞台人として最初に学ばなくてはならない理論と実践をまとめてある。
演目が決まれば、今度はその作品をもとにしたメソッドを、メンバー全員で行う。
何事もスタートが大切であり、哲学空間を舞台に創るのがアラムニーイズムなのだ。
「今」を生き抜いた「ロミオとジュリエット」の公演を終え、次の「今」へ向かうアラムニーメンバー。
死すべき運命のティボルトとマキューシオに続き、今回は新時代の女性として生きるそれぞれの恋人、エルザとシルバーナを検証する。
エルザは、ギリシャ神話の女神からの名前であり、聡明で気品ある女性とした。
ティボルトが愛してやまない、かけがえのないパートナーとして精彩を放つ。
深夜の仮面パーティで、ジュリエットにキスをしたロミオを取り逃がし、激しく自分を責めるティボルトに、エルザがやさしく声をかけるシーン。
エルザ 「私の命はあなたのもの。二人は一つの命。だからあなたの悲しみや怒
り、キャピレットを大切にする気持ちも、良くわかるわ。」
荒ぶる炎の男ティボルトも、愛するエルザの言葉に心を落ち着かせる。
しかしティボルトは、運命の歯車の食い違いで、ロミオに刺殺されてしまう。
その後のエルザは、ジュリエットが麻酔薬を飲むシーンから、ロミオを探して流浪の地マンチュアへ行くなど目覚ましく、新時代の女性として自己主張する。
一方シルバーナは、魅力的で幸運を呼ぶ名前であり、感性の鋭い女性とした。
詩人マキューシオの恋人として、ロミオを中心とする次世代のモンタギュー家を担う、行動的なイタリア娘だ。
思わぬ成り行きにより、命を落とした恋人マキューシオを嘆きつつ、ロミオを「卑怯な殺し屋」と叫ぶエルザに投げかける言葉。
シルバーナ「勝手なことを言わないで!仕掛けたのはあなたたち。因習を超えて、
恋心を育んだ二人を見守ってさえいれば。…マキューシオは心残りに
違いない。」
愛する人を失った二人の、相容れない激しい感情の交差が、決闘の場でドラマチックに展開する。
そして、42時間の仮死状態を信じて霊廟に横たわるジュリエットと、運命の導くまま愛に殉じるロミオとの悲しい再会。
シェイクスピアが戯曲に著した純愛の気高さを、アラムニーの舞台では、エルザとシルバーナのラストの会話に集約し、未来へ向かわせる。
エルザ 「私たちは今心ひとつに、すべての罪を償わなければ。…ジュリエットが
因習を超えて、自ら死を選んだように。」
シルバーナ「本気でそう思うのエルザ。あなたの気持ち、ようやくわかった。」
それを受け、語り部でありルネサンスの風を運ぶロザラインが、このように結ぶ。
ロザライン「エルザとシルバーナ。愛する人の死を胸に刻み、両家を和解させましょ
う。霊廟によどむ暗い過去も、恋人たちの愛の力によって、光を得るの
だわ。」
大人たちを出演させず、10代と20代の若者だけで描く、究極の愛。
ロミオとジュリエットと共に、4日間を生きたすべてのキャラクターが、その存在を十分に発揮したからこそ、純度の高い感動の舞台になったと言えよう。