31
二宮は真剣な顔で大野を見た。
「大野さんには適わないな…」
「当たり前だろ。おまえが嘘ついたってすぐに分かるんだ。」
「ふふふ」
「何がおかしいんだよ?」
「別に…さっきオレが帰って来た時の大野さんの慌てようが…(笑)」
「笑うなよ、心配したんだ。」
「ごめん。」
大野はいつの間にか二宮のペースになっていることに気付き「それより、どこに行ってたんだって?」ともう1度真剣に聞いた。
「うん…パン屋…」
「えっ?パン屋って…?」
「えりかちゃんのところ。」
「えりか…なんで?」
「大野さんをパン屋に戻して欲しいって。頼みに…」
それを聞いて大野は眉間にシワを寄せた。
「どうしてそんな事?」
「怒って…る?」
二宮はそっと大野の顔を覗き込んだ。
「怒ってるよ!なんでそんな事した?」
「オレのせいで…パン屋を辞めたんなら…って。」
「カズのせいじゃいよ、違うから。自分で決めたんだ。」
「でも…せっかく自分でオープンさせた店なのに。」
「いいんだよ、カズ。自分で決めてそうしたんだ。」
「そっか…」
「カズは心配しなくていいから。分かった?」
大野は二宮の顔を覗き込んだ。
「…………」
「カズ?」
「大野さん…」
「どうした?」
「オレでいいの?」
「ん?」
「本当にオレでいいのかなって…」
大野はそれを聞いて二宮をギュッと抱きしめた。
「いいに決まってるだろ。そんな事聞くな。」
「でも…、えりかちゃん まだ大野さんのこと好きだよ?」
そう言うと同時に二宮の瞳から涙が落ちた。
鼻をすする音で二宮が泣いているのが大野にも分かった。
「カズ…俺はおまえが好きなんだよ。それだけじゃダメなのか?」
「…………」
「答えてくれよ、カズ?」
「ごめんね、大野さん、もうそんなこと言わないね。オレもちゃんと好きだよ。」
そう言って笑った。
でも、その顔は何故か寂しげだった。
「泣きながら笑うなよ。」大野は二宮の涙を自分の指で拭ってあげた。
「ふふ、くすぐったい。」
「バカ…もう泣くな。」
「うん…」
大野は、前から感じていた嫌な予感が当たりそうで怖かった。
続く