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『雪景色』和Side~
次の日、起きると楓がいなかった。
あれ?
どこ行ったんだろう。
俺は布団から出て部屋の暖房をつけた。
寒いな。
楓の大きな荷物はそのままだった。
布団の脇に浴衣が畳んでおいてある。
着替えて出掛けたのか…。
そう思っているとスマホが鳴った。
『カズくん、外に出てきて。』
ん?
何?
俺は言われるままに着替えて旅館の外に出た。
外に出るとものすごく寒い。
そして、目の前には綺麗な雪景色が広がっていた。
「楓?」
「カズくん。見て、昨日の夜に雪が降ったみたいなの。」
「そうみたいだな。やっぱり異空間だな。」
「異空間?」
「うん。都会とは違う。俺たちだけの世界みたい。」
「ふふふ、カズくん、急にどうしたの?」
隣にいる楓が笑った。
俺は急に恥ずかしくなって「寒いから中に入ろう」と楓を置いて入り口から中へ入ろうとした。
「待って!」
楓の声に振り向くと楓が持っているカメラを俺に向けた。
「ちょっと…」
「二人で…撮らない?」
「まぁ…いいよ」俺は楓に微笑んだ。
雪をバックに二人で並んで楓が手を伸ばしてシャッターを押した。
それから二人で手を繋いで旅館の周りを歩いた。
「ねぇ、カズくん?」
「何?」
「ううん。」
楓は首を横に振った。
俺はそれ以上何も聞かずにそのまま歩いた。
しばらく歩いて立ち止まって楓を見つめた。
「楓?」
「なに?」
「ううん。なんでもない。」
俺は首を横に振った。
「ちょっとカズくん、気になるよ。」
そう言って俺と手を繋いだまま立ち止まった。
俺は手を引っ張られて無理やり立ち止まった。
「楓、痛いって。」
「だって…」
「さっき楓も、同じことしただろ?」
「あ…っ!」
「で?なんて言おうとしたの?」
「なんでもないよ…」
楓はいつになく恥ずかしそうにした。
「言わないとチューしちゃうよ?」
「もぅー////」
楓はむくれて俺の胸を叩いた。
「痛いって楓。言わないと本当にキスするよ?」
「本当に意地悪なんだからっ!」
楓は俺と繋いでいる手を離して1人で歩き出した。
あーもぅ。
すぐにむくれるんだから、楓は(笑)
「ちょっと待って楓。」
俺は慌てて追いかけた。
「やだ。」
追いかけても楓は早足で逃げていく。
「楓!」
やっと腕を掴んで自分の胸に収めた。
「なんて言おうとしたの?」
「カズって…呼んでいい…?」
「バカ、そんなこと?」
「だって。今更 恥ずかしいもん。」
「いいよ。」
楓は俺の胸の中で小さく「カズ…」そう呼んだ。
「もっとたくさん呼んでよ。」
「うん。カズ?」
「なに?」
「カズ」
「何?」
「好きだよ。」
「うん。」
「大好きだよ。」
「うん。」
「私も…言って欲しい。」
「ダメ。」
「なんで?」
「こうしてからね。」
俺は胸の中にいる楓をそっと、引き離してキスをした。
優しくそして力強く。
唇を話すと「愛してる」そう耳元で囁いた。
「……」
「泣くなよ、楓?」
「うん…分かってる、大丈夫。」
俺たちはそのまま手を繋いで歩いた。
外は寒いのに手から伝わる気持ちはものすごく暖かかった。
あの時、翔ちゃんが送ってくれた楓の手紙を思い出していた。
続く