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『嘘の理由。』和Side~
楓から電話が来たのはそれから1週間あとだった。
紗栄子ちゃんと最後に会った…
あの日から1週間。
あの時、部屋に帰ると紗栄子ちゃんの姿はなかった。
電話で言っていたように俺が部屋に戻れるように帰ったみたいだ。
あれから連絡もしていないし会ってもいない。
楓とも連絡を取る気になれず、翔ちゃんには楓と幸せになって欲しいと言われてたのに。
どうしていいのか分からなくなっていた時、楓から電話が来たんだ。
出ようか一瞬迷って電話に出た。
―はい。
―カズくん?
―うん。
―近いうちに会える?
―…うん、いつ?
―今週末いいかな?
―いいよ。
楓と会う約束をして電話を切った。
どうしよう。
やっぱり会うのはやめたほうがよかったかな。
どんな顔して楓に会えばいいんだろうか?
週末が近付いてくるにつれ緊張が高まった。
楓に会うのにこんなに緊張するなんてな(笑)
そして、週末。
お昼を済ませると約束の場所まで出掛けた。
俺が行くと楓はすでに来ていた。
カフェの隅っこの席に座ってスマホを見ていた。
「楓?」
「あ、カズくん。」
「ごめん、遅かったかな?」
「ううん、私が早く来すぎちゃったの。」
「そっか。」
俺も席に着いてコーヒーを注文した。
「カズくん。」
「ん?」
「今日会ってもらったのはね。」
「うん。」
俺は楓に何を言われるのか察しがついた。
そして、断る理由を考えていた…。
「私、カズくんと一緒にいたいの。あの時カズくんに好きだって言った気持ちのまま。まだずっと…だから…」
楓はそこまで言うと顔を赤くして下を向いた。
「楓…?」
「なに?」
楓は俺の方に顔をそっと向けた。
「俺…楓のこと好きだよ。」
「本当に?」
不安そうな楓の顔が明るくなった。でもそれは一瞬だけだった。
俺が続けたその言葉に悲しそうな笑みを浮かべたんだ。
「でも…楓とはずっと一緒にいられない。会うのも今日が最後。」
「…好きって言うのは友達としての好き…ってこと?」
「ごめん。」
「ううん。今回はフラれない自信あったんだけどな…(笑)」
楓が泣きたいのを我慢しているのが分かった。
ムリして笑顔を作って俺を見ている。
紗栄子ちゃんとあんなことになって…
楓と付き合うなんて…出来ない。
本当はずっと一緒にいたかった。
フルのだって…辛いんだよ、楓。
ごめん。
「カズくん、でも、なんで?会うのも最後って」
「うん…仕事もさ、これから忙しくなるし。もしかしたら勤務地…変わるかもしれない。だから会うのも最後かなって。」
俺はその場で取り繕った言い訳をして楓を納得させた。
「そうなんだ。東京から離れるの?」
「…たぶん…ね…」
俺が小さく頷くと楓はものすごく寂しそうな顔をした。
嘘を付いてるのが苦しかった。
本当はちゃんと楓を抱きしめてずっと一緒にいようって…そう言いたかった。
二人はコーヒーを飲み終わると店を出た。
「あ、雨…」楓が空を見上げてそう言った。
「本当だ。」俺も空を見上げた。
「傘、持ってる?」
「いや…」
すると楓がカバンから小さな折りたたみ傘を出した。
「これ、使って。」楓が俺に傘を差し出した。
「えっ?そしたら楓が濡れちゃうよ?」
「いいの。私、もう一本折りたたみ傘持ってるから。」
「嘘…だろ?」
「本当だよ!」
「じゃあ、もう一本見せて?」
楓は一瞬困った顔をした。
「ごめん。嘘…」
「やっぱり(笑)」
「なんか、カズくんには嘘は付けないや…」
楓のことは、だいたい分かる。
分かるんだ。
ずっと一緒にいたんだ。
もうずっと…
俺たちは長く一緒にいすぎたのかもしれないな。
楓と別れてから部屋に戻るとなんだか急に悲しくなった。
もう、楓とは会わないと決めたんだ。
もう二度と…
続く