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『今でも。今までも。』翔Side~
「翔くん、待った?」
「いや、さっき来たとこ。」
「そっか、良かった。」
楓はニコッと笑うと席に座った。
待ち合わせはコーヒーショップにした。
今日は土曜日でお互い仕事は休みだった。
午後一番の待ち合わせ。
「最近はどう?」
楓が俺を見て聞いてきた。
「特に変わったことはないかな。今まで通りやってるよ。」
「そっかぁ。翔くん、彼女は?」
「ぶっ!!」
俺は思わずコーヒーを吹き出した。
「あはは、ちょっと翔くんっ(笑)」
「急に聞くから…」
「くふふふ。」
楓は俺を見て笑っていた。
「えっ?なに?」
「カズくんと同じ反応だったから可笑しくて(笑)」
「カズと同じ?」
「うん。彼女は?って聞いたら全く同じ反応(笑)」
「ははは、そうなんだ。」
「で?彼女は?」
楓は俺の顔を覗き込んだ。
「いないよ。」
「そっかぁ。翔くん、モテそうなのにね。」
「そんなことないよ。それより楓は?どうなの?」
「ん?私?彼氏はいない。結婚もね…」
「ごめん…俺のせいだな…」
「なんで?翔くんのせい?」
「あの時、俺、自信なくて…本当は…楓と結婚ってさ。考えてたんだ。」
「ふふ。」
楓がまた笑った。
「なんか可笑しなこと言った?俺…」
「ううん。翔くんと結婚…してたらどうなってたかな?って。」
「…うん。なんか変な感じだな(笑)」
「うん。」
楓はコーヒーカップを持って窓の外を見ていた。
「今日、寒いね。雨が降りそう…」
楓がポツリとそう言った。
「あぁ、そうだな。天気予報当たるかな?」
「うん…」
「なぁ、楓?」
「ん?」
楓が窓の外から視線を外し俺を見た。
もう一度、やり直せる?と聞こうとしてやめた。
「カズとさ、幸せになれよ?」
「えっ?」
「カズはさ、ずっと楓が好きだったんだ。今でも…たぶん…」
「何言ってるの?」
「カズは楓のことがずっと好きだったんだよ。」
「だって、私…フラれたんだよ?」
「そう…なの?」
「うん…」
俺はそれ以上聞くのをやめた。
やっぱり楓はカズに好きだと言ったんだな。
俺のことを考えて楓を振ったのか…。
なんか、情けないな。
「翔くん?」
「なに?」
「タイムカプセル。いつかみんなで掘り起こそうって言っててそのままだったよね?」
「あ、あぁ、うん。そうか。そう言えばそうだったね。」
「今度三人で掘り起こしに行かない?」
「そうだな。」
「ねっ?」
楓は俺に笑顔を向けた。
楓のその笑顔が俺の胸を締め付けた。
カズと幸せになって欲しいと思う反面、やっぱりあの時手離したことを後悔する自分もいた。
本当は今日、楓にもう一度やり直せないか、と言うつもりだった。
でも、ギリギリで言えなかった。
結果は分かっていたからだ。
カズと楓がお互い好きだって…
そう思ったから。
なんか本当に情けないな。
俺はずっと片想いだったんだな。
「翔くん?」
「ん?」
「私…今でもカズくんが好きだよ。」
楓はふと俺にそう言った。
続く