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『情けない』和Side~
俺がアパートに着いてしばらくすると、インターフォンが鳴った。
ドアを開けると紗栄子ちゃんがいた。
「来ちゃった」
「うん。」
「ご飯まだだよね?」
「あぁ、そっか。まだ食べてなかったな。」
「鍋、しない?急いで材料買ってきたの。」
「おう、いいね!」
俺は鍋とコンロを棚から引っ張り出した。
「私、野菜切るね。」
紗栄子ちゃんがキッチンでガタガタと用意を始めた。
「二人で鍋もたまにはいいね。」
「うん。」
「ねっ、二宮くんはさ、、」
食べながら紗栄子ちゃんがこっちを見た。
「なに?」
「ううん。やっぱいいや。」
「気になるじゃん。」
「じゃあ、はっきり言う。」
「うん。」
「二宮くんは、楓のことまだ好き?」
「えっ?」
「どうなの?好きなの?」
紗栄子ちゃんは俺をじっと見つめた。
「急にどうしたの?」
「急じゃないよ。私…ずっと思ってたんだよ。」
「ん?」
「ずっと会いたかった。二宮くんに。いつの間にか会わなくなっちゃったし。楓と上手くいってるのかなって…」
「………」
「やっぱり、まだ好き?なんだ?」
「まぁ…うん。いつまでもしつこいよな…でもずっと気持ちは変わらない。好きだよ、楓のこと。」
「そっか…」
「えっ?ちょっと、紗栄子ちゃん?」
紗栄子ちゃんの瞳からツーっと涙が流れた。
「…ごめん。」
「なんで?」
「鈍いな、二宮くんは。だから楓の気持ちにも気付かないんだよ?」
「はっ?」
「ずっと好きだったんだ。気付かなかったでしょ?」
「えっ…?」
俺はバカだな。
こんなに近くにいて全く気付かなかった。
そう言えば昔ふざけて「二宮くんが好き」って…
でも、友達として好きなんだって。
そんなふうに言っていたことがあった。
「紗栄子ちゃん、ごめん。」
「バーカ、謝らないでよ?」
紗栄子ちゃんは泣きながら笑った。
「泣くか、笑うか…どっちかにしろよ?」
俺は泣いている紗栄子ちゃんの頬に伝う涙を指で拭った。
「ふふ、そんなふうに優しくするから…だから好きになっちゃうんだよ?二宮くんはズルいよ…」
泣いている紗栄子ちゃんの瞳にそっとキスをした。
「なんで?」
濡れた瞳で俺を見る紗栄子ちゃんを思わず抱きしめた。
「なんか、ごめん…」
「どうして謝るの?」
「分かんない…」
「二宮くん…」紗栄子ちゃんが俺の腕の中から抜けようとしたが俺は彼女が腕の中から抜けないようにキツく抱きしめた。
「…ズルいよ、二宮くん、ズルい…」
俺は彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「泣いてるからしょっぱい…(笑)」
紗栄子ちゃんは「ふふ」と笑った。
ふと、目が覚めると隣で紗栄子ちゃんが眠っていた。
あぁ、そうか…
時計を見ると4時だった。
朝か…
昨夜、俺は彼女を抱いた。
何やってんだ、俺は。
楓に会えなくて寂しかったからなのか。
紗栄子ちゃんに好きだと言われて浮かれたのか。
どっちにしても情けない。
俺はベッドから出て服を着るとまだ暗くて寒い外へと出た。
「さむー・・・」
もうすぐ冬だもんな。
朝は寒い。
そのままコンビニまで行くと適当に時間を潰した。
自分が彼女を傷付けてしまったことに激しく後悔していた。
好きでもないのに…
よりにもよって楓の親友だ。
もう、どうしようもないな。
何やってるだろうな、俺…
こんな時まで楓に会いたいと思う。
こんな時まで…
情けないな、本当に。
俺はコンビニを出ると冷たい空気の中を歩き出した。
続く