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『どうしてなのか…』和Side~
あれから何日経ったのか。
楓と幸せになって欲しいと翔ちゃんは言った。
楓に連絡しようか迷っているうちにどんどん月日は流れていく。
俺はそれでも…と思って楓に電話をかけた。
―楓、今日会える?
―うん。仕事終わってからなら、いいよ。
―じゃあ、仕事が終わったらまた連絡入れる。
―分かった。
楓はすんなり俺と会う約束をしてくれた。
夕方仕事が終わると急いで会社を出た。
会社から出たところで楓に電話を入れた。
コールは鳴っているのになかなか出ない。
出ないな…
どうしようか?
とりあえずこの前二人で行った居酒屋へ向かうことにした。
すると、後ろから俺を呼ぶ声がした。
「二宮くん。」
「えっ?」
振り返ると紗栄子ちゃんだった。
「紗栄子ちゃん!どうしたの?」
俺がびっくりして彼女の顔をじっと見ていると急に笑い出した。
「えっ?ごめん、なんか可笑しかった?」
「ううん。すごく驚いた顔してるから。」
「あぁ、ごめん。急だったし…」
「待ち合わせ?」
「あ、いや…」
「じゃあ、久しぶりにご飯食べに行こう。最近、二宮くんから全然連絡来なくて。退屈だったんだから。」
紗栄子はそう言ってちょっと膨れた。
「そっか、そうだな。一時期はよく会ってたもんな。」
「うん。楓のことも。よーく相談に乗ってたけど?」
紗栄子ちゃんは俺をじっと見つめた。
「あぁ、うん…確かに(笑)」
「ねっ、今は?どうしてるの?楓とは?」
「いや…今日これから会うんだ。」
「えっ、そうなんだ。」
「紗栄子ちゃんこそ、楓とは会ってないの?」
「うん。最近全然、お互い忙しくてね、会ってないんだ。」
「そっか…今日は?どうしたの?」
「うん。ちょっと近くに用があって帰り道。後ろ姿ですぐに二宮くだって分かったの。」
「ふふ、そっか。」
「楓に会うなら私は帰るね。」
「えっ、せっかくだから一緒に?どう?」
「でも…お邪魔でしょ?」
「そんな事ないよ。」
「だって、デートでしょ?」
「違う、違う!」
俺は顔の前で手をぶんぶん振った。
「そっか。二宮くんはさ、まだ?好きなの?」
「…ふふ、どうかな?」
「ズルいな、二宮くんは。」
「そう?」
「うん。ズルい!」
その時、ポケットのスマホが音を立てた。
「あ、ごめん。楓から…」
「うん。いいよ。」
紗栄子ちゃんが電話に出てとジェスチャーしたので電話に出た。
俺が電話に出ると紗栄子ちゃんは「またね」と小さく言ってその場から離れた。
―楓?
―ごめん。ちょっと仕事が、長引いちゃって。
―うん、大丈夫だよ。どうする?
―あー、ごめん、まだ終わらなそうなの。また今度にしない?
―そっか…うん。忙しいのに誘ってごめん。
―いいよ。また誘って。
―うん。じゃあまた。
俺は電話を切って、ため息をついた。
そして、すでに暗くなった街を一人歩き出した。
会いたかったな。楓に。
そう思いながら歩いているとまたスマホが鳴った。
俺は楓からやっぱり会うおうと言う電話かもしれないと思い急いでポケットからスマホを取り出した。
着信画面には『紗栄子』の名前だった。
―もしもし?
―ごめん。掛けちゃった。
―なに?
―二宮くんががっかりしてる姿が見えたから…
―えっ?
―なんて嘘、、
―嘘?!
―ごめん。私、二宮くんに会いたかったの。
―えっ?どういうこと?
―そのままの意味。楓とは?
―いや…今日は仕事が終わらないからって。
―そんな事だろうと思った。
―分かるの?
―なんか、声が寂しそうだったもん。
―そっか。紗栄子ちゃんにはお見通しだな。
―ふふ、もうずっと二宮くんを見てきたからね(笑)
―…うん。
―ねっ、二宮くんち行っていいかな?
―いいよ。
俺は寂しかったのかな。
紗栄子ちゃんは、確かにずっと俺のそばにいて俺の相談に乗ってくれていたし。
考えてみたら今は楓よりも近い存在だ。
翔ちゃんと楓が海外で暮らしていた時だって。
楓と会わなくなってからも。
近くにいたのは紗栄子ちゃんだった。
最近は会わなくなっていたけど、ずっと俺のそばにいた気がする。
だからって…
どうしてなのか…
続く