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『俺のせい』和Side~
楓は「待ってたんだよ?」そう言った。
「えっ?」
俺は何を言われてるのか頭が混乱した。
「カズくん?」
「あ…ごめん。」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。楓がおかしなこと言うから。」俺はそう言って笑うのが精一杯だった。
「私ね、翔くんにフラれたんだ。聞いてない?」
「あ、うん…なんにも…。会ってないし。」
「そっか。」
「翔ちゃんは?こっちに帰って来てるの?」
「分かんない…知らないんだ、なんにも。」
「ふーん…」
「あの日、あの居酒屋で三人で会った日、覚えてる?」
楓が目の前にある料理を食べながら俺に聞いた。
「うん。覚えてるよ。久しぶりに三人で会ったんだよな。」
「うん。翔くん、あの時以来日本には戻って来なかった。それは知ってるよね?」
「うん。」
「海外に戻る前も何度か連絡したけど、会ってはくれなかった。向こうに帰ってからは、何度かメールでやり取りしたり電話したりしてたんだけど、翔くんも忙しくなっていつの間にか連絡を取らなくなったの。もう、付き合ってるのか友達なのかも分かんなくなっちゃって…翔くんを好きなのかも…分からなくなった。」
「じゃあ、自然消滅?ってやつじゃないの?」
「ううん。違う…」
「違うの?」
「しばらく連絡がないと思ったら急に連絡が来たの。楓の思うままにしろって。」
「思うまま?」
俺は眉間にシワを寄せたまま楓を見た。
「自分の気持ちに正直になれって?翔くん、私の気持ちに気付いてた。だから俺は身を引くって、そう言ったの。」
「翔ちゃんが?」
「うん…」
「で?それっきり?」
「今頃、どうしてるのか…カズくんなら知ってるかと思った。」
「ごめん、俺もずっと会ってないんだ。」
「そっか…そうだよね。」
「で?俺の迎えを待ってたって?」
俺は楓を見た。
楓は、俺を真っ直ぐに見つめたままだった。
「楓…?」
「…翔くんがね、言ったの。楓のこと、よろしく頼むってカズに言ったんだって。カズのこと好きなんだろ?って。」
「そんなことを?」
「…うん。だからカズくんが迎えに来てくれるかもって…そう思ってた…」
確かに翔ちゃんは俺に楓を頼むってあの時、そう言った。
でも俺はそれを突っぱねた。
「私、翔くんが好きだったよ。でも…それ以上にあの時カズくんが好きだった…だから…」
「もう、過去の話だろ?」
「でもあの時、私が告白した時、カズくん、翔くんのところに行けって。そう言ったんだよ。だから…翔くんの所へ行った。」
「なに?それって俺のせいなの?」
なんだか急に腹が立った。
俺が楓を受け入れてたらこんなふうにはならずに翔ちゃんとも今でも時々会って楽しくやってたのかって…。
翔ちゃんが今どうしてるのか…分からなくなる事もなく、三人で、楽しく過ごしてたかもしれないって。
全部、俺が悪いのか。
なんだか自分に腹が立っていた。
そして目の前にいる楓を今でも好きな自分にも腹が立っていた。
続く