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『涙と笑顔』和Side~
「誰もカズくんが悪いなんて言ってないよ?」
楓はいつもと変わらない笑顔だった。
「でもさ…俺があの時…」
「もういいよ。終わったんだし。ねっ?」
楓が俺に笑顔を向ければ向けるほど自分が情けなくなった。
いつまでも成長しないな。
「でもさ…俺も苦しかったんだ。」
その言葉を口にした時…何故だか涙が頬を伝った。
あれ?なんで泣いてんるだろ…?
「カズくん…?」
楓が俺を心配して見つめていた。
「ごめん。なんで泣いてんだろ?」
「バカだな…カズくんは。泣くことないじゃん(笑)」
「楓の気持ちに応えなかったから…」
「もう、いいよ。カズくんが悪いわけじゃないんだし。」
お酒も入っているせいで泣けてくるのか、なんなのか。
俺は本当にバカだな。
やっぱりあの時、楓の気持ちに応えてやれば良かったのに。
好きだと言う気持ちをどうして封印してしまったんだろう。
今更遅い。
「ごめん。楓。」
「もう、カズくん、もっと明るくいこう、ねっ?暗い話は終わり。」
楓は、そう言って笑った。
それから、しばらく飲み食いして楓とは別れた。
「カズくん、またね。連絡先、変わってないから。また連絡して?」
「あぁ、うん。また連絡する。」
「またね。」
そう言うと楓は歩き出した。
振り返ることなく歩いて行く。
こちらに振り返るかと思ってしばらく後ろ姿を見ていたが振り返ることはなかった。
俺も反対方向へと歩き出した。
アパートに着くとベッドに身を投げた。
疲れた…
目を瞑って微かに眠りに落ちた頃スマホが音を立てた。
あれ?電話?
俺はベッドから起き上がってソファに放り投げたスマホを手に取った。
誰だろ?
えっ?!
俺は思わずスマホを落としそうになった。
翔ちゃん…
俺は急いで電話に出た。
―はい。
―久しぶり?カズ。
―どうしたの?今までどこにいたの?何してたの?日本にはいつ帰って来たの?
―ちょ、ちょっと落ち着いて…カズ。
―あ、ごめん…だけど、翔ちゃん、今までどうしてたの?
―連絡もしないでごめん。仕事でいろいろあって、海外からは1回戻ったんだけどね。
また、行くことになって。
―そっか。で?今日は急にどうしたの?
―うん…。元気かなって思って…
―それだけ?
―なんで?
―なんかあるのかなって。翔ちゃん、今は日本?
―うん。
―今日ね、楓に会ったんだ。偶然ね…
―そっか、なんか聞いてる?
―いや…翔ちゃんとは別れたって事だけ。
―…なんかさ、騒いだ割りにはあっさりダメになっちゃって。楓、元気にしてた?
―元気だったよ。いつもと変わらない。アイツずっと変わらないのな…
―本当にな。
―翔ちゃん?楓には会わないの?
―会いたいよ。ずっと会ってないんだ。
―だよね。
それからしばらく電話で話して会う約束をして電話を切った。
翔ちゃんは、どうして楓と別れちゃったのかな…。
あの時、楓を頼むって、どんな気持ちでそれを言ったのか。
楓に「思うまま」にしろって。どんな気持ちで?
話したかった。
楓への気持ちもきちんと翔ちゃんに話そう、そう思った。
続く