君と歩く未来を54
『傘』和Side~
その日は、雨だったんだ。
あの雨宿りした日。
もう、何年も前になる。
何年経ったんだろうか…?
もう、10年も前になっちゃうのかな?
あの雨宿りの日から。
社会人にも慣れて仕事にも慣れて。
いつの間にか、大人になった。
年齢だけは大人になった。
楓はどうしているだろうか。
会社から帰る時には雨は酷くなっていた。
傘…忘れちゃったな…
会社のビルの入り口で俺はボーッと立っていた。
それでもと思って急いで走って近くのコンビニまで来た。
ビニール傘と缶コーヒーを買った。
缶コーヒーはスーツのポケットに入れ傘を差した。
さっきよりは小降りになったものの、雨は止まなかった。
傘を差しながら歩いていると、すれ違いざまに一瞬傘がぶつかった。
「すいませ…」
振り返ると見覚えのある顔…
「あっ!!」その人はびっくりして俺を見た。
「…楓…」
「びっくりした。」
楓は本当にびっくりしたように目を丸くしていた。
「うん…びっくり…」俺はそれ以上言葉にならなくて楓を見つめたまま突っ立っていた。
「カズくん?時間ある?」
楓の言葉がうまく頭に入ってこない。
「えっ…」
「だから、時間ある?」
「あ、うん。うん、大丈夫。」
「そんなにびっくりした?(笑)」
「えっ、あ、まぁ」
そりゃそうだ、さっきまで楓のことを考えていたんだから。
想っていたらまさか会ってしまうなんて。
「そっか(笑)雨も止まないしお茶でもしない?それとも、ご飯行く?」
そう言ってほほ笑む楓を思わず抱きしめそうになった。
いや、ダメだ。
理性が働く。
「あ、うん。じゃあ、久しぶりにメシでも行く?」
そう言って笑ったけれど、なんだかドキドキしていた。
最後に会ってからどのくらいの月日が流れたのか。
楓は全く変わっていなかった。
「ねぇ、そのポケットの缶コーヒー。どうするの?」
「えっ、あっ。」
さっきコンビニで買ってスーツのポケットに入れたままだった。
スーツの上着のポケットから少しだけ見えたみたいだ。
「忘れてた(笑)」
俺が笑うと楓も笑った。
昔の楓と、変わらない。
「居酒屋でもいいよ。」楓がそう言って俺を見る。
「うん、そうだな。じゃあ、行こうか?」
俺たちは、少し歩いて居酒屋に入った。
席について、お酒や食べ物を少し注文した。
「カズくん、最近はどうしてたの?」
「変わらないよ。会社もずっと同じだし、偉くなったわけでもないし。ずーっと変わらず。」
「そっか。」
「うん、楓は?」
「私もおんなじ。出版社でそのまま。でも仕事は楽しいんだ。」
「楽しいならいいじゃん。」
「うん、まぁね。カズくん、彼女は?」
突然の質問に俺はビールを吹き出しそうになった。
「ブッ!!」
「ちょっと、カズくん、汚い。」
「だって、そんな急に、突然そんなこと聞くから。」
「えー、そんなおかしなこと聞いた?」
「いや、おかしくはないけど…」
「ねぇ、どうなの?」
楓がいたずらっぽく俺を見た。
「いないよ、それより、楓は?どうなの?」
俺は何の気なしに聞いてしまった。
「ふー・・・」
ため息をついて天井を見た。
俺は変なことを聞いたかも、と思ったがそのまま続けた。
「で?どうなの?」
「うん。別れたよ。」
「えっ?」
「聞きたかったんでしょ?翔くんとのこと。」
楓は、真剣な顔をして俺を見た。
別れたんだ…。
そっか。
「カズくん、私を迎えに来なかったね…待ってたのに…」
「えっ!?」
俺はびっくりして変な顔をしていたに違いない。
楓は、「待ってたんだよ?」そう言った。
続く