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二人の間に沈黙が流れた。
「あの…二宮くん、なんでパン屋辞めちゃったの?」
「うん…それは…さ。」
二宮はみわの顔を見た。
「やっぱり…私だよね…?」
みわも二宮の顔を見た。
「ごめん…」二宮はみわをじっと見つめたまま謝った。
「なんで謝るの?謝るのは私の方だよ。」
「でも…なんかずっと気まずいままで…オレ…なんかさ。いろいろ悩んでやっぱりあそこにいるのはちがうんじゃないかって。大野さんとも…その…そういう関係になったんだし。男女とは違うから。一緒の職場にいるのはさ…なんか…」
そう言ってみわから視線を逸らした。
「そんな事ないよ。もっと一緒に働きたかった。大野さんも辞めちゃうし…」
「えっ?!」
二宮はびっくりして、みわの顔を見た。
「なに?!」
みわもびっくりして二宮を見た。
「大野さん、いつ辞めたの?!」
「二宮くん、知らなかったの?一緒にいるのに?」
「あ、うん。知らなかった…」
「そうなんだ。ごめん。知ってるのかと思ってた。」
「いつ辞めたの?」
二宮はもう一度みわを見て聞いた。
「二宮くんが辞めてから、割りとすぐに。」
「そっか。だからか…」
「ん?」
「ずっと家にいるし、たまにパン屋に行ってきたって言うけど…なんか…おかしいなって思ってた。」
「そうなんだ。えりかさんにお店任せるって言って辞めたんだよ。」
「そうだったんだ。」
「二宮くん、大野さんね、えりかさんにお店を任せるって言って最初お金を渡したの。でも、えりかさんは受け取れないって…突き返したみたい。最後に会ったのは、その時だったみたい。」
「お金…?」
「まぁ、大野さんもどうしていいのか分かんなかったみたい…でも、二人でやるってお金出し合ったみたいだから…お金返すとかそんなつもりだったのかな。たぶん…」
「そっか…」
またしばらく沈黙が続いた。
「あの…ちゃんと食べてる?」
「あぁー、うん。大野さんがうるさくて。大丈夫、ちゃんと食べてるし。この前みたいに倒れないから(笑)」
沈黙がまた続いた。
みわは何かを考えていたが思い切って口をひらいた。
「二宮くん…最後だからお願いがあるの。」
みわは、恥ずかしそうに二宮を見た。
「なに?」
「うん…あのね…」
みわは顔を真っ赤にしながら下を向いた。
そして「最後に抱きしめてキスして欲しい。」と小さな声で言った。
「えっ?」
みわは顔を真っ赤にしながら二宮を見た。
「ゴメン。嫌だよね…だって二宮くんは女の子には…その…」
二宮は、みわを見て小さく微笑んだ。
そして「いいよ。」と優しく言った。
「でも…やっぱりダメだよ。大野さんがいるし…」
「自分から言ったんでしょ?」そう言って優しく笑う。
みわは、心がキュっとなった。
やっぱり好きだ、そう思った。
二宮くんは優しい。
忘れたくて来たのにやっぱりムリだよ。
そう思っていると二宮がみわの隣に来た。
「どうして欲しいの?」
そう言ってそっとみわを抱きしめた。
そして優しくそっと唇に指で触れた。
「どこにキスすればいい?」
みわは、自分から言っておいてやっぱりやめればよかったと思った。
ますます好きになってしまう…。
バカだな、私。
そう思っていると二宮の唇が自分の唇に触れた。
続く