櫻井がソファーに座っているとドアをノックする音が聞こえた。
急いでドアの所まで行ってドアを開ける。
「なんだ、潤くんか...」
「ちょっと...なんだって事はないでしょ?(笑)」
「あ、ごめん...」
「雅紀は?まだいないの?」
「うん。どうしよう?」
櫻井は松本を不安そうに見た。
「心当たりないの?高橋の所へは?行った?」
「うん。知らないって。でも少し前までいたみたい。」
「それで?何か言ってたって?」
「いや...でも美紀ちゃんに謝ってて俺が身代わりになれたらなって。そう言ってたって。」
「本当に?それちょっとヤバくない?思い詰めて何かしないといいけど...」
「あ、そう言えば雅紀病院のパジャマだったよな?私服は?監禁されてた時に着てた服、確かここにしまってあったよな?」
松本はそう言いながら小さいクローゼットを開ける。
「あった?」
「ない...」
松本は首を横に振ってクローゼットを閉めた。
「じゃあ、やっぱり外に...?」
櫻井は不安になり松本を見つめた。
「どうしようか?」
「ねぇ、美紀ちゃんってどこで事故にあったのかな。その場所に行ったとか...」
「翔くん、そうかも。行ってみようか?」
「でも、場所は?どこなの?」
「あの時のコンサート会場から近い所のはず。」
松本と櫻井は顔を見合わせて「行こう!」と言った。
相葉は街を歩いていた。
マスクをして歩いていても少し目立った。
それでも気付かれることはなく人混みに紛れた。
この辺だろうか...?
美紀はあの日どうやって会場まで来てどの道を歩いたのか。
最後は怖ったよね...
相葉は美紀の辿ったであろう道を歩いていた。
あの時、俺もちゃんと高橋に言えば良かったのかな。
美紀と来るように。
もう、何をどう後悔した所で時間は戻らない。
俺が身代わりになった所で何も変わらない。
街を歩きながらいろいろ考えたけれど何も答えは出ない。
これ以上歩き回ったって...
その時スマホが鳴っているのに気付いた。
着信画面を見ると高橋と見えた。
―はい。
―あ、相葉?今どこ?
―今?どうして?
―探してたよ?相葉の仲間が。
―そっか...大丈夫戻るから。
―相葉?
―何?
―俺...間違ってたんだ。謝るのは俺の方だよ。
―ふふ、もういいよ。分かってる。美紀の事本当に大事に想ってたんだよな。
―うん。
高橋が電話の向こうで泣いているのが分かった。
あの時狂い出した歯車は少しずつ戻って来ているのかもしれない。
高橋と美紀と俺と。
あの時のように。
もう、どんなに過去に戻りたくても戻れない。
高橋は俺の知らない所でずっと苦しんで来たんだ。
ずっと。
相葉は電話を切ると再び歩き出した。
どこへ行くでもなくただ歩いていた。
高橋は電話を切っていつものように美紀のベッドの横に座った。
今日はもう帰ろうか。
そんな事を思っているとピクっとした。
えっ?
美紀?
美紀の手がほんの少し動いた気がした。
微かにわずかに。
その動きはよく見ないと分からないぐらいだか確かに動いた。
美紀...?
高橋は美紀がさらに動かないかとじっと見つめていた。
続く